認知症ケア研修の組み立て方——行動の背景を本人の視点で考える(BPSD・意思決定支援・事例演習)
更新日:2026-11-04・約9分で読めます
事業所の中で行う認知症ケアの研修について、回数や内容を定めた運営基準の条文はありません。運営基準が求めるのは研修の機会の確保と、通所介護や施設などで資格を持たない職員に認知症介護基礎研修を受講させる措置で、認知症専門ケア加算や認知症チームケア推進加算を算定する場合は、告示が会議・研修計画・チームでのケアの振り返りを求めています。この記事は、厚生労働省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」に沿って、本人の意思の尊重、行動の背景を考える事例演習、チームでの話し合い、記録までを60分の研修に組み立てる方法を整理しました(2026年11月時点)。個別の症状の原因や、医療・服薬の判断は書いていません。
サービス類型別の義務研修一覧・年間計画表
まず結論:認知症ケアの研修は「本人の意思・行動の背景・チームで振り返る」を1回で通す
事業所の中で行う認知症ケアの研修は、回数や内容を運営基準が定めた「義務研修」ではありません(根拠は次の節)。
この研修の狙いは、行動を職員の側から止める方法を覚えることではなく、本人の意思と行動の背景を本人の側から考え、チームで対応を決めて試し、振り返る流れを全員でそろえることです(当社の整理)。
- 組み立て(当社の整理):①本人の意思の尊重と意思決定能力への配慮 ②架空の場面で行動の背景を考える演習 ③チームで決めて試し、振り返る ④家族との関わり ⑤確認テストと記録。
- 別の記事で扱うこと:資格を持たない職員が受ける研修は「認知症介護基礎研修の義務化とは?」、身体的拘束等の適正化の研修は「身体拘束適正化の研修は年2回?」。
- 書かないこと:個別の症状の原因、医療や服薬の判断(体調や服薬に関わることは医師・看護職員に相談します)。
根拠:運営基準は研修の機会と体制、加算の告示は会議・研修計画・チームケア
居宅サービスの運営基準(平成11年厚生省令第37号)は、訪問介護に訪問介護員等の資質の向上のための研修の機会の確保を求め(第30条第3項)、通所介護には、これに加えて、資格を持たない全ての通所介護従業者に認知症介護に係る基礎的な研修を受講させるために必要な措置を求めています(第101条第3項)。指定介護老人福祉施設(特養)の基準(平成11年厚生省令第39号)第24条第3項にも同じ趣旨の規定があります。通所介護の具体的取扱方針(第98条第6号)は、認知症である要介護者に対しては、必要に応じ、その特性に対応したサービスの提供ができる体制を整えるとしています。
加算の基準を定めた告示(平成27年厚生労働省告示第95号)は、認知症専門ケア加算(Ⅰ)で従業者に対する認知症ケアに関する留意事項の伝達又は技術的指導に係る会議の定期的な開催を、(Ⅱ)で介護職員、看護職員ごとの認知症ケアに関する研修計画の作成と、計画に従った研修(外部における研修を含む)の実施または実施の予定を求めています(訪問介護などは第3号の4、短期入所・施設・グループホームなどは第3号の5)。令和6年度に新設された認知症チームケア推進加算(第58号の5の2)は、認知症の行動・心理症状の予防等に資するケアについて、カンファレンスの開催、計画の作成、定期的な評価、ケアの振り返り、計画の見直し等を求めています。認知症専門ケア加算を算定している場合は算定できません(令和6年度の改定事項)。
共生社会の実現を推進するための認知症基本法(令和5年法律第65号)は、基本理念に、全ての認知症の人が自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができるようにすること(第3条第1号)などを掲げ、福祉サービスを提供する者に良質かつ適切なサービスの提供に努めることを求めています(第6条)。
年間計画の中での位置:外部の基礎研修と、事業所内の研修を分けて書く
事業所内の研修には法令上の回数の定めがないので、計画表では外部で受ける認知症介護基礎研修と分けて書き、事業所が決めた計画であることがわかるようにします(当社の整理)。
- 年1回の全体研修:本人の意思の尊重と事例演習を全員でそろえる回(当社の整理)。
- 認知症専門ケア加算(Ⅱ)を算定している場合:介護職員・看護職員ごとの研修計画に、この回を位置づけ、(Ⅰ)の会議とは別に記録します(当社の整理)。
- 身体的拘束等の適正化の研修と近い時期に置く:行動への対応が拘束につながらないよう、話をつなげられます(当社の整理)。
60分の時間割(当社の整理)
パートや夜勤の職員も対象です。全員が集まれない時は、同じ資料で日を分けます(当社の整理)。
| 区分 | 時間 | 内容 |
|---|---|---|
| 導入 | 5分 | 目的、話し合いの約束(利用者が特定される情報を出さない)、事業所の認知症ケアの考え方の確認。 |
| 講義 | 15分 | 本人の意思の尊重、意思決定能力への配慮、意思の形成・表明・実現の支援、行動・心理症状(BPSD)という言葉の扱い。 |
| 演習 | 20分 | 架空の場面を小グループで読み、本人の側から行動の背景を考え、試す対応を1つ書く。 |
| 話し合い | 10分 | 自分たちの職場で、時間帯・環境・関わり方のどれを変えられるかを出し、1つ決める。 |
| まとめ | 10分 | 記録の書き方の確認、確認テスト、実施記録。 |
講義で押さえること:本人の意思の尊重と、意思決定能力への配慮
ガイドラインは、意思決定支援を、認知症の人が能力を最大限活かして自らの意思に基づいた生活を送れるようにするための支援と定め、介護サービス事業所の職員を含む関わる全ての人を支援者としています。
基本原則として、一見すると意思決定が困難と思われる場合でも、本人には意思があり意思決定能力を有することを前提にすること、本人の表明した意思・選好、確認が難しい場合は推定意思・選好を確認して尊重することから始めること、身振り手振りや表情の変化も意思表示として読み取る努力を最大限に行うことを挙げています。意思決定能力は、認知症の状態だけでなく環境などによって変化し、支援者の支援力によっても変化するとしています。
支援は、意思形成支援(必要な情報を分かりやすい言葉でゆっくり説明する、開かれた質問で聞く)、意思表明支援(焦らせない、最初に示された意思に縛られず適宜確認する)、意思実現支援(本人の能力を最大限活用し、多職種で日常生活に反映する)の流れで進めます。
告示は「認知症の行動・心理症状」という言葉を使っています。講義では、行動を止める対象としてだけ見ず、本人が何を伝えようとしているか、どんな時間・環境・関わりの中で起きたかを観察して記録する見方をそろえます(当社の整理)。
演習:行動の背景を本人の側から考える
当社が作った架空の場面です。目的は原因を言い当てることではなく、ガイドラインの観点に照らして背景を考え、試す対応を1つ決めることです。ガイドラインも、知識の伝達だけでなく、具体的な場面でどう使うかを中心とした、事例を使っての研修が必要だとしています。
- 進め方(当社の整理):各自で読む→本人が伝えようとしていることを3つ挙げる→観点と照らす→試す対応と、誰がいつ振り返るかを書く。体調の変化や痛みが疑われる時は、対応を決める前に看護職員・医師に相談する、を必ず入れる。
| 場面 | 照らすガイドラインの観点 | 話し合いの問い |
|---|---|---|
| 夕方になると「家に帰る」と言って出口に向かう。 | 本人の表明した意思を確認し、尊重することから始める。生活史を家族関係も含めて理解する。 | 本人にとっての「帰る」は何か。誰に何を聞けば分かるか。 |
| 入浴の声かけを毎回断る。 | 急がせない、集中できる時間帯を選ぶ、疲れている時を避ける。経験してみて意思が変わることもある。 | 時間帯・誘い方・担当者のどれを変えて試すか。 |
| 説明に「はい」と答えるが、同じことを何度も尋ねる。 | 理解しているという反応でも、実際は理解できていない場合がある。その都度丁寧に説明し、文字や図も使う。 | 説明の仕方をどう変えるか。 |
| 大勢の食堂では、食事の途中で席を立つ。 | 慣れない場所や大勢に囲まれると緊張や混乱が生じ、意思を表明しにくくなる。 | 席の位置、人数、音など、環境の何を変えられるか。 |
| 家族が「危ないので外に出さないでほしい」と言う。 | 家族も意思決定支援者。悩みや対立の理由を確認し、社会資源等で本人の意思を尊重できないか検討する。 | 家族の不安をどう聞き、本人の意思との両立をどう探るか。 |
チームで決めて、試して、振り返る
ガイドラインは、本人の意思を繰り返し確認すること、支援の過程や判断が適切だったかを確認して質の向上を図ること、本人のその後の生活に影響を与える意思決定支援を行った場合はその都度記録を残すことを求めています。支援方法に困難や疑問を感じる時は、本人・家族・医療や介護の関係者などのチームで情報を共有して話し合い(意思決定支援会議)、この会議はサービス担当者会議等と兼ねることができるとしています。
認知症チームケア推進加算を算定している事業所では、演習で決めた対応を、告示が求めるカンファレンス・計画・評価・振り返りの流れに乗せると、研修がそのままケアの計画につながります(当社の整理)。
家族との関わり:家族も本人を支える一員
ガイドラインは、本人をよく知る家族は本人を理解するために欠かせず、意思決定支援チームの一員となることが望ましいとする一方、本人の意思と家族の意思が対立する場合もあるとしています。その場合は、家族の悩みや対立の理由を確認したうえで、提供可能な社会資源等を検討し、本人の意思を尊重できないかを考えます。家族が不安を抱かないよう、必要な情報を丁寧に説明することも求めています。
研修では、家族から聞き取る項目(好きだったこと、生活の習慣、呼ばれ慣れた名前など)を確認します(当社の整理)。
記録に残すことと、よくある抜け
研修の記録は、研修の機会の確保や、加算の研修計画に沿った実施を後から示す材料になります(当社の整理)。
- 実施記録(当社の整理):日時、参加者(パート・夜勤の職員を含む)、講師、資料と事例、扱ったガイドラインの項目、確認テストの結果、決めた改善。
- 確認テストの例(当社の整理・○×):「認知症の人は意思決定ができないことを前提に支援する」(×)、「言葉で答えられない時は、表情や身振りも意思表示として読み取る」(○)、「最初に示された意思に従えば、後から確かめなくてよい」(×)、「家族も本人の意思決定を支える一員になり得る」(○)。
- よくある抜け(当社の整理):行動を止める方法だけを教える/決めた対応を誰がいつ振り返るかを決めない/基礎研修の受講管理と事業所内の研修の記録を混ぜる/体調の変化を医療職に相談する流れを入れていない。
この記事で確認した一次資料
2026年11月4日に、次の資料の本文を取得し、該当箇所を確かめました。法令や国の資料は改訂されます。運営基準・加算の扱いは指定権者(都道府県・市区町村)にご確認ください。本記事は法的助言・医療上の助言ではありません。
- 法令(e-Gov法令API):平成11年厚生省令第37号 第30条第3項・第98条第6号・第101条第3項、平成11年厚生省令第39号 第24条第3項、共生社会の実現を推進するための認知症基本法 第3条・第6条。
- 告示(厚生労働省 法令等データベース):平成27年厚生労働省告示第95号 第3号の4・第3号の5(認知症専門ケア加算)、第58号の5の2(認知症チームケア推進加算)。
- 改定資料:「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」の認知症チームケア推進加算。
- ガイドライン:「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(平成30年6月)のⅡ(2頁)、Ⅲ(3〜5頁)、Ⅳ(6〜10頁)、Ⅴ(13頁)。
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出典(一次資料)
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