不適切ケアに気づく研修の組み立て方——虐待の芽を日常のケアから見つける演習
更新日:2026-11-04・約9分で読めます
「不適切ケア」は、虐待とまでは言えなくても、利用者の尊厳や心身・生活への影響から見て望ましくないケアを指す、現場の言葉です。確認した法律・運営基準・解釈通知に定義はありませんが、解釈通知は虐待の未然防止と早期発見を求め、国のマニュアルは「虐待の芽」に気づいて職員どうしが声をかけ合う職場づくりを取組例に挙げています。この記事は、日常のグレーゾーンの事例演習、自分のケアの振り返り、責めない話し合い、言い出せる仕組みと報告の受け止め方までを、60〜90分の研修に組み立てる方法を整理しました(2026年11月時点)。個別の行為が虐待に当たるかどうかの判断は書いていません。判断は市町村が事実確認にもとづいて行います。
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研修キット(レジュメ・確認テスト・記録様式)
まず結論:不適切ケアの研修は「気づく・話し合う・言い出せる」を1回で通す
「不適切ケア」は、確認した法律・運営基準・解釈通知に定義が見当たりません。この記事では、虐待とまでは言えなくても本人の尊厳や心身・生活への影響から見て望ましくないケアを指す、職場の言葉として扱います(当社の整理)。
研修の狙いは、職員が自分や同僚のケアの中にある「虐待の芽」に気づき、責め合わずに話し合い、言い出せる職場にすることです。演習を中心にします(当社の整理)。
- 組み立て(当社の整理):①言葉の使い方 ②日常の場面の事例演習 ③自分のケアの振り返り ④責めない話し合い ⑤言い出せる仕組み ⑥確認テストと記録。
- 別の記事で扱うこと:法定研修の回数・新規採用時・記録は「介護の虐待防止研修は何をすればいい?」、60分の進行表は「高齢者虐待防止研修、60分の進め方」、減算は「高齢者虐待防止措置未実施減算とは?」。
- 書かないこと:個別の行為が虐待に当たるかの判断(判断は市町村が事実確認にもとづいて行います)。
根拠:解釈通知の「虐待の未然防止」「早期発見」と、相談・報告できる体制
訪問介護の解釈通知(介護保険最新情報 Vol.934)は、虐待の防止の観点として「虐待の未然防止」「虐待等の早期発見」「虐待等への迅速かつ適切な対応」を挙げ、未然防止では、高齢者の尊厳保持・人格尊重に対する配慮を常に心がけながらサービス提供にあたる必要があり、研修等を通じて従業者に理解を促す必要があるとしています。ほかのサービスも同じ趣旨です。
早期発見では、従業者は虐待等を発見しやすい立場にあるため、相談体制や市町村の通報窓口の周知などが望ましいとし、虐待防止検討委員会の検討事項に「虐待等について、従業者が相談・報告できる体制整備に関すること」を挙げています。
運営基準の一般原則(訪問介護は平成11年厚生省令第37号第3条第3項)も、虐待の防止等のため、従業者に研修を実施する等の措置を求めています。この研修は、未然防止・早期発見と相談・報告できる体制を、職員の側から支える回です(当社の整理)。
研修の前提:「不適切ケア」を、通報を避ける言い換えに使わない
国のマニュアル(「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」令和8年3月改訂・第Ⅲ章)は、虐待の有無を判断する際の考え方として、行為だけをみれば虐待とまではいえない場合でも、高齢者の身体面・精神面・行動面への悪影響(そのおそれ)や権利利益の侵害がないかという視点で検討することが必要だとしています(印字111ページ)。研修では、この「本人への影響」の視点を日常のケアで持つことを目指します。
同じページには、虐待に該当すると考えられる行為を、該当するか否かの判断をせずに「極めて不適切な行為」として処理することは法では想定されていない、という国の通知も載っています。研修の最初に、この呼び方を虐待かもしれない出来事を軽く扱うために使わないこと、虐待を受けたと思われる高齢者を見つけたら市町村へ通報する義務があること(高齢者虐待防止法第21条)を確認します。
60〜90分の時間割(当社の整理)
60分に収める時は、演習2を事前の宿題にします。解釈通知は、研修は事業所内での研修で差し支えないとしています。
| 区分 | 時間 | 内容 |
|---|---|---|
| 導入 | 5分 | 目的、言葉の使い方、話し合いの約束(人を責めない・ここで出た話を外で話さない)。 |
| 演習1 | 20〜25分 | 日常の場面を「気づきの観点」で読み、本人への影響を考える(小グループ)。 |
| 演習2 | 10〜15分 | 自分のケアの振り返り(無記名のセルフチェック)。 |
| 話し合い | 15〜20分 | 背景をチーム・仕組みの面から探し、改善を1つ決める。 |
| 講義 | 10分 | 声のかけ方、報告の受け止め方、相談・報告の流れと市町村の通報窓口。 |
| まとめ | 5〜10分 | 確認テスト、改善案を委員会へ渡す段取り、記録。 |
演習1:日常のグレーゾーンの場面と「気づきの観点」
当社が作った架空の場面です。目的は「虐待に当たるか」の結論ではなく、本人への影響と避け方を話し合うことです。自事業所の出来事を使う時は、個人が特定される情報を外します(当社の整理)。
- 進め方(当社の整理):各自で読む→本人への影響を書き出す→グループで共有→自分の職場で起きそうな場面を1つ足す。
| 日常の場面 | 気づきの観点 | 話し合いの問い |
|---|---|---|
| 食事介助で、本人が飲み込む前に次のひと口を運ぶ。 | 安全(むせ)、本人のペースと意思。 | 本人のペースに合わせるには、何を変えるか。 |
| 排泄介助の間、居室やトイレの戸を開けたままにする。 | プライバシー、羞恥心。 | 忙しい時でも守れる手順は何か。 |
| 本人に聞かずに、着る服や入浴の順番を職員が決める。 | 本人の選択、その人らしさ。 | どの場面なら本人に選んでもらえるか。 |
| 「立たないで」「座ってて」と何度も声をかける。 | 行動の制限、本人の不安。 | 立ち上がる理由は何か。言い換えと、理由への対応は。 |
| ナースコールや杖を、本人の手の届かない所に置いたまま離れる。 | 安全、助けを呼べるか。 | 離れる前の確認を、手順にどう入れるか。 |
| 利用者の前で、職員どうしが私語や別の利用者の話をする。 | 尊厳、個人の情報。 | 利用者の前で話してよいことは何か。 |
演習2:自分のケアを無記名で振り返る
国のマニュアル第Ⅲ章は取組例として、「虐待の芽チェックリスト」や「虐待予防セルフチェックリスト」を年に何回か行い、管理者や委員会が中心になって結果を集計し、比較できる形にまとめて話し合い、改善することを紹介しています(印字120ページ)。
研修では、演習1の場面に「最近1か月で、したことがある・見たことがある」の印をつける形が使えます。無記名にし、人事評価に使わないと最初に伝えます。目的は、職場で起きやすい場面を知ることです(当社の整理)。
話し合いの進め方:個人を責めず、背景を探す
国のマニュアルは、従事者による虐待は、虐待を行った職員のみに原因を求められるものではなく、組織運営面の問題が職員の行動に影響していると考えられるとし(印字117ページ)、背景要因を「組織運営」「負担・ストレスと組織風土」「チームアプローチ」「倫理観とコンプライアンス」「ケアの質」の5つに分けた先行研究も紹介しています(印字118ページ)。
話し合いでは、多かった場面ごとに「なぜ起きやすいか」を人手と時間、手順、知識と技術、チームの連絡、職場の雰囲気に分けて出し、改善を1つだけ決めます(当社の整理)。マニュアルの予防のポイントは、話し合いを否定や批判でなく合意を形成する場にすることも挙げています(印字119ページ)。
言い出せる仕組み:声のかけ方と、報告の受け止め方
国のマニュアルの取組例には、「虐待の芽」に気付いた時に職員間で声をかけ合い助け合える関係を作ること、職員が困ったり苛立ったりしている時に声をかけ合い時には交代すること、人事考課に関係しない面接が挙がっています(印字120ページ)。予防のポイントには、管理職が職員の負担やストレスに気づくことも挙がっています(印字119ページ)。
研修では、言う側と受け止める側の両方を練習します。言った人が責められる職場では次の報告が出ません(当社の整理)。
- 言う側:人でなく場面を伝える(例「さっきの声かけ、急いでいるように聞こえた」)。その場で言いにくければ、虐待防止の担当者に相談する。
- 受け止める側:まず「教えてくれてありがとう」と受け取り、言い訳から始めない。
- 管理者・担当者:報告した人を責めない。いつ・どこで・誰に・何があったかを事実で記録し、指針の相談・報告の流れに沿って扱う。
- 虐待を受けたと思われる高齢者を見つけた時:従事者は速やかに市町村に通報しなければならず、通報を理由に解雇その他不利益な取扱いを受けません(高齢者虐待防止法第21条・虚偽や過失によるものを除く)。
研修のあと:委員会につなぎ、記録を残す
決めた改善案と振り返りの集計は、虐待防止検討委員会に渡し、次の研修で結果を確かめます(当社の整理)。解釈通知は、委員会で得た結果を従業者に周知徹底する必要があるとしています。
同じ解釈通知は、虐待等の事案は複雑かつ機微で、一概に従業者に共有されるべき情報とは限らず、慎重に対応することが重要だとしています。研修では、特定の出来事や職員の名前を挙げません(当社の整理)。
- 確認テストの例(当社の整理・○×):「不適切ケアは虐待ではないので、誰にも伝えなくてよい」(×)、「行為だけでなく、本人の心身や生活への影響を考える」(○)、「同僚のケアで気になった時は、人でなく場面を伝える」(○)、「虐待を受けたと思われる高齢者を見つけたら、市町村に通報する」(○)。
- 実施記録(当社の整理):日時、参加者、講師、資料と事例、内容、確認テストの結果、委員会へ渡した改善案。
無料の虐待防止研修キットとの組み合わせ方
本サイトの「高齢者虐待防止研修キット」には、そのまま読み上げて実施できる約30分のレジュメ、確認テスト10問(解答・解説つき)、実施記録様式、出席簿がそろっています。すべて登録不要・無料で、入力内容はお使いのブラウザ内にのみ保存され、外部には送信されません。印刷(PDF保存)してそのまま保管できます。
キットのレジュメの不適切ケアとグレーゾーンの節(5分)を導入で読み、続けてこの記事の演習と話し合いを行う組み合わせ方ができます(当社の整理)。
法令や国の資料は改訂されます(本記事は2026年11月時点)。研修の扱いは指定権者(都道府県・市区町村)に、個別の出来事が虐待に当たるかは市町村にご相談ください。本記事は法的助言ではありません。
この記事で確認した一次資料
2026年11月4日に、次の資料の本文を取得し、該当箇所を確かめました。ページ番号は本文の印字ページです。
- 国のマニュアル(令和8年3月改訂)第Ⅲ章の印字99・100ページ(通報者の保護)、111ページ(虐待の有無を判断する際の考え方)、117〜120ページ(発生要因と予防のポイント、取組内容のまとめ)。
- 解釈通知:介護保険最新情報 Vol.934 と老企第25号の令和6年度改正(別紙10)の訪問介護の「虐待の防止」の項。
- 法令(e-Gov法令検索):高齢者虐待防止法 第21条、平成11年厚生省令第37号 第3条第3項・第37条の2。
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出典(一次資料)
【免責事項】本キットは研修実施の参考資料です。法令・運営基準・介護報酬の内容は改定されることがあります。実際の運用にあたっての最終確認は、指定権者(都道府県・市区町村等の自治体)へのご確認をおすすめします。本キットの利用により生じた損害について、当社の損害賠償責任は、故意・重過失を除き購入代金の額を上限とします。