倫理及び法令遵守に関する研修は義務?介護の運営基準・業務管理体制(法令遵守責任者)・虐待防止との関係を原文で整理(2026)
更新日:2026-10-26・約12分で読めます
倫理及び法令遵守に関する研修は、運営基準が全サービスに義務づける「研修の機会の確保」の中で行うもので、運営基準や解釈通知の改正文に「倫理」「法令遵守」という研修名や回数の定めはありません。一方、利用者の人権の擁護や虐待の防止のための「研修を実施する等の措置」は運営基準の一般原則で義務とされ、介護保険法は事業者に法令の遵守と、法令遵守責任者の選任などの業務管理体制の整備を求めています。義務と言える範囲と言えない範囲、法令遵守規程と研修の関係、虐待防止の研修との関係、研修で扱う内容と記録を、法令・解釈通知・国の検査指針・運営指導の確認文書で整理しました(2026年10月時点)。
まず結論:倫理・法令遵守の研修も「研修の機会の確保」の中で行う。名前と回数の指定はない
介護保険の運営基準(厚生労働省令)は、すべてのサービスで、従業者の資質の向上のために研修の機会を確保することを義務づけています。ただし、運営基準にも、その解釈を示す解釈通知の改正文にも、「倫理」「法令遵守」という語は出てきません。倫理・法令遵守の研修は、この研修の機会の確保の中で、事業所が選ぶテーマの一つとして行うものです。
一方で、倫理の中心にあたる利用者の人権の擁護と虐待の防止については、運営基準の一般原則が「研修を実施する等の措置」を義務づけています。義務と言える範囲と言えない範囲を分けると、次のとおりです。
- 義務と言える:従業者の資質の向上のために研修の機会を確保すること(全サービスの運営基準)。回数の定めはありません。
- 義務と言える:利用者の人権の擁護、虐待の防止等のため、必要な体制を整え、従業者に「研修を実施する等の措置」を講じること(運営基準の一般原則・基本方針)。居宅療養管理指導は令和9年3月31日まで努力義務です。
- 義務と言える:虐待の防止のための研修を定期的に実施すること(運営基準)。回数は解釈通知で年1回以上または年2回以上です。
- 義務と言える:介護保険法と同法に基づく命令を守り、そのための業務管理体制を事業者(法人)単位で整え、法令遵守責任者を選任して届け出ること。
- 言えない:「倫理研修」「法令遵守研修」という名前の研修を、決まった回数行う義務。
- 言えない:法令遵守規程に研修を書く義務や、法令遵守責任者が研修を受ける義務。施行規則に定めがありません。
根拠:運営基準の「研修の機会の確保」と、解釈通知の「計画的に確保」
訪問介護の運営基準(平成11年厚生省令第37号)第30条第3項は、「指定訪問介護事業者は、訪問介護員等の資質の向上のために、その研修の機会を確保しなければならない」と定めています。特養の運営基準(平成11年厚生省令第39号)第24条第3項も同じ書き方で、どちらも研修の内容と回数は書いていません。
解釈通知は、この規定を、研修機関が実施する研修や事業所内(施設内)の研修への参加の機会を「計画的に確保すること」としたものと説明しています(訪問入浴介護・地域密着型通所介護・特養・介護医療院などの解釈通知)。サービス別の条文は次のとおりです。
- 居宅サービス(37号):訪問介護 第30条第3項、訪問入浴介護 第53条の2、通所介護 第101条第3項、特定施設 第190条。訪問看護・通所リハビリテーション・短期入所などはこれらを準用しています。
- 地域密着型サービス(34号):定期巡回 第3条の30第4項、地域密着型通所介護 第30条(小規模多機能型居宅介護などが準用)、グループホーム 第103条第3項、地域密着型特養 第149条など。グループホームの解釈通知は、認知症介護に関する研修の機会の確保に努めるよう求めています。
- 施設と居宅介護支援:特養 39号 第24条第3項、老健 40号 第26条第3項、介護医療院 5号 第30条第3項、居宅介護支援 38号 第19条第3項。
- 福祉用具貸与・特定福祉用具販売:37号 第201条の「福祉用具に関する適切な研修の機会を確保しなければならない」です。研修の中身を福祉用具に関するものとしている点がほかと違います。
根拠:一般原則の「人権の擁護…研修を実施する等の措置」
令和3年度の改正で、運営基準の一般原則・基本方針に次の規定が入りました。訪問介護などの37号 第3条第3項は「指定居宅サービス事業者は、利用者の人権の擁護、虐待の防止等のため、必要な体制の整備を行うとともに、その従業者に対し、研修を実施する等の措置を講じなければならない」と定めています。居宅介護支援・地域密着型サービス・特養・老健・介護医療院の運営基準にも同じ規定があります。
解釈通知は虐待の防止の節で、高齢者の尊厳保持・人格尊重への配慮について「第3条の一般原則に位置付けられているとおり、研修等を通じて、従業者にそれらに関する理解を促す必要がある」としています。条文は「研修を実施する等の措置」で、研修以外の措置も含む書き方です。居宅療養管理指導は、令和9年3月31日まで努力義務とする経過措置があります。
介護保険法の「法令遵守」と業務管理体制:法令遵守責任者は事業者に置く
介護保険法第74条第6項は、指定居宅サービス事業者に、「要介護者の人格を尊重するとともに、この法律又はこの法律に基づく命令を遵守し、要介護者のため忠実にその職務を遂行しなければならない」と定めています。地域密着型サービス(第78条の4第8項)や介護老人福祉施設(第88条第6項)などにも同じ規定があります。
第115条の32第1項は、これらの義務の履行が確保されるよう、事業者に厚生労働省令で定める基準に従って業務管理体制を整備することを、第2項はその届出を義務づけています。整備の中身は事業所・施設の数で決まり、介護保険法施行規則第140条の39と第140条の40が次のように定めています。
- 1以上20未満:法令遵守責任者(法令を遵守するための体制の確保に係る責任者)を選任すること。
- 20以上100未満:法令遵守責任者の選任に加えて、業務が法令に適合することを確保するための規程(法令遵守規程)を整備すること。
- 100以上:上の2つに加えて、業務執行の状況の監査を定期的に行うこと。
- 届出事項:法令遵守責任者の氏名と生年月日(全事業者)、規程の概要(20以上)、監査の方法の概要(100以上)。
- 法令遵守責任者の役割:業務管理体制は事業所ごとでなく事業者(法人)単位の義務です。運営指導マニュアルは、法令遵守責任者には「法令等遵守が果たされるよう取り組む責任があり、法令遵守責任者の指揮の下で自己点検を行うことが期待されます」としています。
法令遵守規程に研修を書く義務はある? 明文の定めはない
施行規則第140条の39は、規程を「整備すること」とだけ定め、規程に書く項目を指定していません。法令遵守責任者に資格や研修の受講を求める定めもありません。
監督する側の文書では、研修は次のように扱われています。
- 確認検査指針(令和6年4月4日 老発0404第3号):一般検査は届出事項の整備・運用状況を確認するもので、原則として概ね6年に1回です。小規模の事業者は運営指導に併せて行ってよいとされています。指針に「研修」の語はありません。
- 実施要領(令和7年3月26日 事務連絡):厚生労働省が行う検査の要領を自治体に参考として示したものです。事業者が記入する調書で、全従業員を対象とした法令等遵守に関する研修等(セミナー、勉強会等の名称は問わない)の名称・実施計画・対象者・頻度・内容・到達目標・参加実績を尋ね、法令遵守責任者が研修に参加するなど自己研鑽に取り組んでいるかも尋ねています。
- 当社の整理:規程に研修を書くこと自体は義務ではありませんが、法令遵守規程に研修の計画を位置づけ、実施の記録を残しておくと、規程の運用状況を説明しやすくなります。
虐待防止・身体拘束・ハラスメントの研修との関係:一体で行う明文はない
高齢者虐待防止法第20条は、養介護施設の設置者と養介護事業を行う者が、従事者の研修の実施、苦情の処理の体制の整備その他の虐待の防止等のための措置を講ずるものとしています。運営基準も、虐待の防止のための研修を「定期的に実施すること」を義務づけています(訪問介護 第37条の2第3号など)。
関連する研修の扱いは、運営基準と解釈通知で次のとおりです。
- 虐待防止の研修の回数:特養・老健・介護医療院・特定施設・グループホームなどは年2回以上、訪問介護・通所介護・短期入所・小規模多機能型居宅介護・居宅介護支援などは年1回以上です。新規採用時には必ず実施することが重要とされています。
- 虐待防止の研修の内容:基礎的内容等の適切な知識を普及・啓発し、事業所の指針に基づき虐待の防止を徹底するものとされ、実施内容の記録も必要です。
- 身体拘束:施設系などは、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施することが義務です(特養 第11条第6項第3号など)。
- ハラスメント:運営基準(訪問介護 第30条第4項など)が求めるのは職場のハラスメントを防ぐ「方針の明確化等の必要な措置」で、条文に研修の語はありません。
- 一体で行う場合:解釈通知が研修の一体実施を明記しているのは、感染症の業務継続計画(BCP)の研修と感染症の予防の研修の組合せです。倫理の研修と虐待防止の研修を一体で行うことを認める文言も、禁じる文言もありません。
- 当社の整理:一体で行う時は、虐待防止の研修として求められる内容を含め、記録にも虐待防止の研修として残すと、運営指導の確認文書に答えやすくなります。
国のマニュアルは「倫理観とコンプライアンス」を虐待の背景要因に挙げる
厚生労働省の高齢者虐待対応の国マニュアル(令和8年3月改訂)第Ⅲ章は、施設・事業所での虐待の背景要因を「組織運営」「負担・ストレスと組織風土」「チームアプローチ」「倫理観とコンプライアンス」「ケアの質」の5つの次元で整理した先行研究を紹介しています。法に基づく調査で、虐待を行った職員の要因として「倫理観・理念の欠如」などが上位を占めることも示しています。発生要因と予防のポイントの表では、課題の一つを「必要な倫理や守るべき法令が理解されていない」とし、予防のポイントを次のように挙げています。
- ケアになぜ倫理観が必要か理解している。
- 何が高齢者虐待や身体拘束にあたるのか知っている。
- 虐待防止や身体拘束廃止の具体的な方法を知っている。
- 虐待防止や身体拘束廃止について話し合う仕組みがある。
研修で扱う内容:法令の義務と、団体の倫理綱領を分けて伝える
法令で決まっている義務と、職能団体の倫理綱領(法令ではありません)を分けて伝えると、守らなければならないことが職員に伝わりやすくなります。
- 尊厳と自立:介護保険法第1条は、要介護者等が「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」給付を行うとしています。運営基準の一般原則は、利用者の意思と人格を尊重し、常に利用者の立場に立ったサービスの提供に努めることを求めています。
- 法令の遵守:介護保険法第74条第6項などの遵守義務。記録や報酬の請求も、運営基準と報酬の基準に従います。
- 秘密保持:運営基準(訪問介護 第33条)は、従業者が業務上知り得た利用者・家族の秘密を漏らさないこと、辞めた後も漏らさないよう事業者が措置を講じること、サービス担当者会議等で個人情報を使う時はあらかじめ文書で同意を得ることを定めています。個人情報保護法も、安全管理措置(第23条)と従業者の監督(第24条)を求めています。
- 虐待の通報:高齢者虐待防止法第21条は、従事者が自分の職場で従事者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した時、速やかに市町村へ通報することを義務づけ、通報を理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁じています。
- 身体拘束:特養の運営基準第11条第4項は、生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行ってはならないとしています。
- 介護福祉士の義務:社会福祉士及び介護福祉士法は、誠実義務(第44条の2)、信用失墜行為の禁止(第45条)、秘密保持義務(第46条・資格を失った後も同じ)、資質向上の責務(第47条の2)を定めています。
- 倫理綱領(団体の文書):日本介護福祉士会の倫理綱領(1995年11月17日宣言)は、利用者本位・自立支援、専門的サービスの提供、プライバシーの保護、総合的サービスの提供と積極的な連携・協力、利用者ニーズの代弁、地域福祉の推進、後継者の育成の7項目です。法令ではありません。
新人・中途採用者への伝え方
解釈通知には、倫理・法令遵守について「新規採用時に研修」という定めはありません。入職時に何を伝えるかは事業所の判断です。
国の身体拘束廃止・防止の手引きは実践事例として、組織のトップが新人研修で法人理念とともに本人の暮らしの大切さを伝えている例や、スピーチロックも身体拘束として「ちょっと待ってね」等の言い換えに取り組む例を紹介しています。入職時の虐待防止の研修に、倫理の基本(尊厳・自己決定・秘密保持)と通報のルートを組み込むと1回で伝えられます(当社の整理)。
運営指導で確認されるもの:確認項目と確認文書の言葉
厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」の別添「確認項目及び確認文書」は、訪問介護について次の項目と文書を挙げています。「倫理」「法令遵守」の研修を名指しした項目はありません。
- 勤務体制の確保等:確認項目「資質向上のために研修の機会を確保しているか」、確認文書「研修の計画及び実績がわかるもの」。
- 秘密保持等:確認項目「退職者を含む、従業者が利用者の秘密を保持することを誓約しているか」、確認文書「従業者の秘密保持誓約書」。
- 虐待の防止:確認項目に「虐待の防止のための研修の定期実施」、確認文書「虐待の防止のための研修の計画及び実績がわかるもの」。
- 注意書き:別添の【はじめに】は、例示した文書のうち運営基準に明記されていないものは、提出がなくても基準違反にはならないとしています。
- 当社の整理:倫理・法令遵守の研修も年間研修計画に載せ、少なくとも年1回は機会を設けて、実施日・テーマ・講師・受講者・使った資料・理解度の確認結果を実施記録に残すと、「研修の計画及び実績」として示せます。
無料で使える倫理・法令遵守研修キット
本サイトの「倫理・法令遵守(コンプライアンス)研修キット」には、読み上げレジュメ・確認テスト10問・実施記録様式・出席簿がそろっています。登録不要・無料で、入力はお使いのブラウザ内にのみ保存され、外部には送信されません。年間研修計画の中の「資質向上・倫理」の枠にご活用ください。
法令・介護報酬は改定されます(本記事は2026年10月時点)。最終的な適用は指定権者(都道府県・市区町村等の自治体)へご確認ください。
この記事で確認した一次資料
2026年10月26日に、下の「出典」に挙げた法令、運営基準、解釈通知の改正文、国のQ&A、業務管理体制の検査指針と実施要領、運営指導の確認文書、国のマニュアルと手引き、日本介護福祉士会の倫理綱領を取得し、該当箇所を確かめました。
この記事を書いたチームは、note でも介護の仕事で考えたことを書いています。note をフォローする
出典(一次資料)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)
- 指定居宅サービス等の運営基準(平成11年厚生省令第37号)第30条第3項「その研修の機会を確保しなければならない」(訪問介護。他のサービスも同趣旨の規定)
- 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)
- 介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成30年厚生労働省令第5号)
- 介護保険法(平成9年法律第123号)
- 介護保険法施行規則(平成11年厚生省令第36号)第140条の39(業務管理体制の整備の基準)・第140条の40(届出)
- 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)
- 社会福祉士及び介護福祉士法(昭和62年法律第30号)第44条の2・第45条・第46条・第47条の2
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)
- 介護保険最新情報 Vol.934(令和3年度改定・解釈通知改正)
- 介護保険最新情報 Vol.1213(令和6年度改定・解釈通知等改正)
- 介護保険最新情報 Vol.1345(令和6年度改定 Q&A)
- 介護保険最新情報 Vol.1248「介護サービス事業者に係る業務管理体制の監督について(通知)」(老発0404第3号・令和6年4月4日/別添 介護サービス事業者業務管理体制確認検査指針・PDF)
- 厚生労働省老健局総務課介護保険指導室「介護サービス事業者業務管理体制確認検査実施要領の送付について」(事務連絡・令和7年3月26日・PDF)
- 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」(令和6年7月改訂)
- 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」別添 確認項目及び確認文書(令和6年7月改訂・PDF)
- 厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」(令和8年3月改訂)第Ⅲ章 養介護施設従事者等による虐待への対応(PDF)
- 厚生労働省老健局「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月・PDF)
- 公益社団法人日本介護福祉士会「倫理綱領」(1995年11月17日宣言・団体の文書)
- 厚生労働省「介護サービス事業者の業務管理体制」
【免責事項】本キットは研修実施の参考資料です。法令・運営基準・介護報酬の内容は改定されることがあります。実際の運用にあたっての最終確認は、指定権者(都道府県・市区町村等の自治体)へのご確認をおすすめします。本キットの利用により生じた損害について、当社の損害賠償責任は、故意・重過失を除き購入代金の額を上限とします。