介護の個人情報保護研修は義務?秘密保持・安全管理措置・従業者の教育の根拠と、漏えい時の報告までを原文で整理(令和8年改正法の公布を含む・2026)
更新日:2026-10-26・約24分で読めます
介護事業所の個人情報保護で義務なのは、運営基準の「秘密保持等」と、個人情報保護法の「安全管理措置」「従業者の監督」です。条文に「研修を実施しなければならない」という文言はありませんが、個人情報保護委員会の通則編ガイドラインは「従業者の教育」を人的安全管理措置として講じなければならない措置に挙げ、手法の例として「定期的な研修等」を示しています。研修の回数や時間を定めた規定はありません。運営基準の条文、法の条文、ガイドライン、国のQ&A、運営指導の確認文書、令和8年7月に公布された改正法の扱いまで、2026年10月時点の原文で整理しました。
まず結論:義務は「秘密保持」と「安全管理」。研修は「従業者の教育」の代表的な方法
介護事業所の個人情報の義務は、大きく3つあります。1つ目は、運営基準(厚生労働省令)の「秘密保持等」です。2つ目は、個人情報保護法の安全管理措置(第23条)と従業者の監督(第24条)です。3つ目は、事故が起きたときの漏えい等の報告・本人への通知(第26条)です。いずれも法令上の義務で、国のQ&Aは、取り扱う個人情報が少ない小規模の事業者も対象外ではないと明記しています。
一方、「個人情報保護の研修を実施すること」を名指しで義務づける条文は、運営基準にも法にも見当たりませんでした。ただし、研修の機会の確保そのものは、運営基準の「勤務体制の確保等」が事業者に義務づけています(例:訪問介護は第30条第3項、特養は第24条第3項)。そして個人情報保護委員会の通則編ガイドラインは、法第23条の人的安全管理措置として「従業者の教育」を、講じなければならない措置に挙げ、その手法の例示に「定期的な研修等」を置いています。「教育を行うこと」が求められ、「研修」はその代表的な方法、という関係です。
- 義務:従業者・元従業者の秘密保持(運営基準)、安全管理措置・従業者の監督・委託先の監督(法第23条から第25条)、報告対象となる漏えい等の報告と本人通知(法第26条)。
- 研修:名指しの義務条文は見当たらない。通則編は「従業者の教育」を講じなければならない措置とし、「定期的な研修等」を手法の例示として挙げている。
- 決まっていないこと:個人情報保護の研修の回数、時間、内部講師か外部講師か、全職員が同時に受けるか。
根拠①:運営基準の「秘密保持等」は、従業者・元従業者・文書による同意の3本立て
サービスごとの運営基準に、同じ構成の「秘密保持等」の条があります。e-Gov の法令API(v2)で原文を取得して確かめた、主な条は次のとおりです。
- 訪問介護:平成11年厚生省令第37号 第33条。通所介護など他の居宅サービスは、この条を準用しています(例:通所介護は第105条が第32条から第34条までを準用)。
- 居宅介護支援:平成11年厚生省令第38号 第23条。
- 特養:平成11年厚生省令第39号 第30条。老健:平成11年厚生省令第40号 第32条。介護医療院:平成30年厚生労働省令第5号 第36条。
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護:平成18年厚生労働省令第34号 第3条の33。地域密着型特養:同省令第153条。
条文の中身:第1項は従業者、第2項は事業者、第3項は同意
訪問介護の第33条を例にすると、3つの項で次のように定めています。施設系の第3項は中身が異なります。
- 第1項:従業者は、正当な理由がなく、業務上知り得た利用者またはその家族の秘密を漏らしてはならない。
- 第2項:事業者は、従業者であった者が、正当な理由がなく、業務上知り得た利用者またはその家族の秘密を漏らすことがないよう、必要な措置を講じなければならない。
- 第3項(居宅系):サービス担当者会議等で利用者の個人情報を用いる場合は利用者の同意を、家族の個人情報を用いる場合は家族の同意を、あらかじめ文書により得ておかなければならない。居宅介護支援と定期巡回も同じ内容です。
- 第3項(施設系):居宅介護支援事業者等に対して入所者に関する情報を提供する際には、あらかじめ文書により入所者の同意を得ておかなければならない。特養・老健・介護医療院・地域密着型特養で確かめました。
解釈通知が示す「必要な措置」:雇用時の取り決めと、包括的な同意
国の解釈通知(老企第25号・老企第43号)は、第2項の「必要な措置」の具体例として、従業者でなくなった後も秘密を保持すべき旨を、従業者との雇用時等に取り決め、例えば違約金についての定めを置くなどの措置を挙げています。居宅系の第3項の同意は、サービス提供開始時に利用者とその家族から包括的な同意を得ておくことで足りるとされています。
根拠②:個人情報保護法の条文。介護事業所は「個人情報取扱事業者」
個人情報を検索できるように体系的に構成したもの(利用者台帳、記録システム、紙のファイルなど)を事業に使っている者は、個人情報保護法の「個人情報取扱事業者」にあたります(第16条第2項)。介護事業所は通常これに当たります。研修に関係する条文は次のとおりです(条番号は2026年10月時点の e-Gov の現行条文)。
- 第17条・第18条・第21条:利用目的をできる限り特定し、取得したら速やかに本人に通知または公表し(書面で直接取得するときはあらかじめ明示)、同意なく目的の範囲を超えて扱ってはならない。
- 第20条第2項:要配慮個人情報は、法令に基づく場合など一定の場合を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで取得してはならない。
- 第23条(安全管理措置):漏えい、滅失、毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる。
- 第24条(従業者の監督):従業者に個人データを取り扱わせるときは、安全管理が図られるよう、必要かつ適切な監督を行う。
- 第25条(委託先の監督):個人データの取扱いを委託するときは、委託先に対する必要かつ適切な監督を行う。
- 第26条:個人の権利利益を害するおそれが大きい漏えい等が生じたときは、個人情報保護委員会へ報告し、本人に通知する。
- 第27条:個人データの第三者提供は、一定の場合を除き、あらかじめ本人の同意が必要。委託、事業承継、共同利用に伴う提供は「第三者」への提供にあたらない(第5項)。
介護の現場の情報は何にあたるか:個人情報・個人識別符号・要配慮個人情報
個人情報は、生存する個人に関する情報で、氏名や生年月日などにより特定の個人を識別できるものです(第2条第1項)。他の情報と容易に照合して特定できるものも含みます。写真も、個人を識別できるものであれば個人情報にあたると国のQ&Aが示しています。
介護保険の被保険者番号等は、施行令第1条第8号が「個人識別符号」に挙げています(介護保険法第201条の2第1項に規定する被保険者番号等)。これが含まれる情報は、それだけで個人情報です。
要配慮個人情報は、病歴、心身の機能の障害があること、健康診断等の結果、医師等による指導・診療・調剤が行われたことなどを内容とする記述が含まれる個人情報です(法第2条第3項、施行令第2条、施行規則第5条)。国のQ&Aは、介護事業者が取り扱うものの例として、介護関係記録に記載された病歴、健康診断の結果、障害の事実などを挙げています。要介護度そのものは、政令の列挙にも、Q&Aの例示にも見当たりませんでした。ただし、介護記録には病歴や障害、心身の状態の変化が書かれるのが通常ですから、現場では記録を要配慮個人情報を含むものとして慎重に扱うのが確実です。要配慮個人情報は、取得にも第三者提供にも原則として本人の同意が要り、オプトアウトによる第三者提供は認められません。
研修の根拠:通則編ガイドラインの「従業者の教育」と、法第24条の従業者の監督
個人情報保護委員会の通則編ガイドライン(令和8年6月一部改正)の別添「講ずべき安全管理措置の内容」は、人的安全管理措置として「従業者の教育」を、講じなければならない措置に挙げています。内容は、従業者に個人データの適正な取扱いを周知徹底するとともに、適切な教育を行うことです。手法の例示は、取扱いの留意事項について従業者に定期的な研修等を行うこと、個人データの秘密保持に関する事項を就業規則等に盛り込むことの2つです。従業員100人以下などの中小規模事業者も同じ内容です。なお通則編は、例示のすべてを講じなければならないわけではなく、適切な手法が例示に限られるわけでもないと断っており、回数や時間の定めはありません。
同じ通則編は、法第24条の従業者の監督について、漏えい等をした場合に本人が被る権利利益の侵害の大きさや取扱状況などに応じて、教育・研修等の内容や頻度を充実させるなど、必要かつ適切な措置を講じることが望ましいとしています。ここでいう「従業者」には、雇用関係のある正社員、パート、アルバイトだけでなく、取締役や理事、派遣社員なども含まれます。
監督を怠った事例として通則編が挙げているのは、従業者が規程どおりに業務をしているかを確認しなかった結果、個人データが漏えいした場合と、規程に違反してノート型パソコンや外部記録媒体が繰り返し持ち出されていたのに放置した結果、紛失して漏えいした場合です。研修で伝えるだけでなく、守られているかを確かめる運用までが「監督」です。
介護事業所向けの国のガイダンス(令和8年4月一部改正)が挙げる、安全管理措置の項目
個人情報保護委員会と厚生労働省は、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日、令和8年4月一部改正)を公表しています。居宅サービス、地域密着型サービス、居宅介護支援、介護保険施設などを経営する事業者が対象です。同じ令和8年4月に、Q&A(事例集)も一部改正されています。
令和8年4月の改正の新旧対照表は2ページで、変更は個人識別符号の欄(施行令第1条第8号の引用を介護保険法第201条の2第1項の「被保険者番号等」へ改め、施行規則第3条を削除)です。安全管理措置や教育研修の記述は変わっていません。ガイダンスが「安全管理措置として考えられる事項」に挙げるのは次の項目です(保存と廃棄・消去は1つにまとめました)。
- 1. 個人情報保護に関する規程の整備と公表:開示の手順や苦情対応の体制を含め、掲示やホームページで周知する。
- 2. 組織体制の整備:管理者や監督者、担当部署や委員会を定め、安全管理措置の自己評価を定期的に行う。
- 3. 漏えい等が起きた場合の報告連絡体制:事故や規程違反の事実・兆候があるときの責任者への報告連絡体制を整える。
- 4. 雇用契約時の規程の整備:就業期間中はもとより離職後も含めた守秘義務を課す。
- 5. 従業者に対する教育研修の実施:従業者の啓発を図り、意識を徹底する。派遣労働者にも配慮する。
- 6. 物理的安全管理措置:入退室の管理、持込み・持出しの禁止や検査、記録機能のある機器の接続の制限など。
- 7. 技術的安全管理措置:IDやパスワードなどのアクセス管理(二要素認証が望ましい)、アクセス記録、ファイアウォール、脆弱性対策など。
- 8・9. 個人データの保存(消失させず、本人の照会に迅速に対応できる状態に)と、不要になった個人データの廃棄・消去(復元不可能な形で)。
第三者提供と同意:介護で迷う場面を、国のガイダンスとQ&Aで確かめる
研修で最も質問が出るのは、「この場合は本人の同意が要るのか」という場面です。ガイダンスとQ&Aが示している整理を、場面ごとにまとめました。個別の事案は、最終的に指定権者や個人情報保護委員会の相談窓口に確認してください。
- サービス担当者会議などで利用者・家族の情報を使う:運営基準が文書による同意を求めています。ガイダンスは、事業所内への掲示ではなく、サービス利用開始時に利用者から文書で同意を得ておくことが必要としています。
- 他の施設へ移るとき(特養・老健・介護医療院):移動先から心身の状況などを求められたら、運営基準に基づき、あらかじめ文書で入所者の同意を得ます(Q&A Q4-14)。
- 委託、事業承継、共同利用:「第三者」にあたりません。共同利用は、項目、利用する者の範囲、利用目的、責任者などをあらかじめ本人に通知するか、容易に知り得る状態に置いている場合です。
- 家族への説明:本人にあらかじめ、説明する家族等の対象者を確認して同意を得ることが望ましいとされています。重度の認知症の高齢者の状況を家族等に説明する場合は、家族であることを確認したうえで、必要な範囲で同意なしに提供できる場合があります。
- 高齢者虐待の関係機関との連携:本人の生命、身体、財産の保護に必要で同意を得ることが困難なときは、法第27条第1項第2号により、同意なしで情報提供できます(Q&A Q4-16)。通報も、高齢者虐待防止法第21条第6項が、守秘義務の規定は通報を妨げるものと解釈してはならないと定めています。
- 写真:個人を識別できる写真を、ホームページや機関誌に載せる、施設内に展示するなど、第三者の閲覧に供するときは、原則として本人の同意が必要です(Q&A Q4-15)。
- 研修に実際の事例を使う:事業者内部の利用で利用目的を公表していれば、改めて同意は不要ですが、できる限り氏名等を消すなど必要最小限の利用が望ましいとされています。他の事業所の職員が参加する検討会は、第三者提供になります(Q&A Q4-8・Q4-9)。
事業所で起きやすい事故の型と、条文のどこに当たるか
SNSへの投稿については、法令にも国のガイダンスにも個別の記載は見当たりませんでした。投稿の中身が個人を識別できる写真や話であれば、写真・秘密保持の整理に当てはまり得るため、事業所の規程で明示しておくのが確実です。現場で起きやすい型を条文に当てはめると、次のようになります。
- 記録・USB・スマートフォンの紛失、持ち出し:安全管理措置と従業者の監督の問題です。繰り返し持ち出しを放置すると、監督を怠った事例になります(通則編)。
- メール・FAXなどの誤送信:送信先に連絡して情報を廃棄してもらうなどの対応が必要と考えられています(Q&A Q3-9。薬局のFAX誤送信の例で、個別の事例に応じて判断は異なります)。報告対象かも確認します。
- 立ち話・雑談、家族や知人への口外:運営基準の秘密保持(従業者は正当な理由なく秘密を漏らしてはならない)の問題です。
- 委託先(給食、清掃、記録システムの保守、請求事務など)への個人データの提供:法第25条で委託先の監督が必要です。ガイダンスは、契約に安全管理措置の内容を盛り込んで受託者の義務とすること、業務が適切に行われているかの定期的な確認、再委託の事前の文書による報告または承認を挙げています。
- 電話や面会の問い合わせ:保険会社、職場、学校、マーケティング会社などからの照会に、本人の同意なしに回答してはなりません(ガイダンスの例)。入所しているかどうかを含めた問い合わせに答えることも問題となる可能性があり、取扱いを統一して、あらかじめ入所者に確認しておくことが望ましいとされています(Q&A Q3-11)。
- 元職員・退職予定者:運営基準第2項の「必要な措置」にあたる、誓約書や就業規則の整備と、退職時の再確認の問題です。
漏えい等が起きたとき:報告対象の4つの場合と、報告の期限
漏えい、滅失、毀損のうち、個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして施行規則第7条が定める次の事態は、個人情報保護委員会への報告と、本人への通知が必要です(法第26条)。発生したおそれがある場合も含みます。
- 要配慮個人情報が含まれる個人データの漏えい等(高度な暗号化その他の措置を講じたものを除く)。
- 不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある個人データの漏えい等。
- 不正の目的をもって行われたおそれがある行為による個人データの漏えい等(不正アクセスなど)。
- 個人データに係る本人の数が1,000人を超える漏えい等。
報告の期限と初動:速報は目安3〜5日、確報は30日(不正の目的のおそれは60日)
通則編ガイドラインによると、報告は2段階です。速報は、報告対象事態を知った後、速やかに行います。「速やか」の目安は、事業者が知った時点から概ね3〜5日以内です。確報は、30日以内(不正の目的をもって行われたおそれがある行為による事態を含む場合は60日以内)に行います。報告は原則として、個人情報保護委員会のホームページの報告フォームに入力します。国のガイダンスは、報告・通知が必要な例として、診療情報や調剤情報を含む個人データを記録したUSBメモリを紛失した場合を挙げています。
国のQ&Aは、初動を次の順で示しています。①責任ある立場の者へ直ちに報告し、被害の拡大を防ぐ。②事実関係の調査と原因の究明。③影響範囲の特定。④再発防止策。⑤報告対象の事態なら、個人情報保護委員会への報告と本人への通知。研修では、①の「誰に、どう連絡するか」を職員全員が答えられる状態にしておくことが、いちばん効果があります。
個人データの取扱いを委託している場合は、原則として委託元と委託先の双方が報告する義務を負います。連名で報告でき、委託先が報告義務を負う委託元に当該事態を通知したときは、委託先の報告義務は免除されます(法第26条第1項ただし書)。
退職者・新人・派遣職員への対応:入職時の取り決めと、運営指導の確認項目
運営基準の第2項、ガイダンスの「雇用契約時における個人情報保護に関する規程の整備」、通則編の「秘密保持に関する事項を就業規則等に盛り込む」は、同じ方向を向いています。離職後も含めた守秘義務を、雇用契約や就業規則で課す、ということです。派遣労働者も「従業者」に含まれます。
国の運営指導マニュアル(令和6年7月改訂)の別添「確認項目及び確認文書」では、訪問介護の「秘密保持等(第33条)」の確認項目が次の2つです。他のサービスの秘密保持等の欄も同じ型になっています。
- 確認項目:個人情報の利用に当たり、利用者(利用者の情報)及び家族(利用者家族の情報)から同意を得ているか。
- 確認項目:退職者を含む、従業者が利用者の秘密を保持することを誓約しているか。
- 確認文書の例:個人情報の利用に関する同意書、従業者の秘密保持誓約書。
- 注意:マニュアルは、確認文書として例示していても運営基準に明記されていないものは、提出がなくても基準違反にはならないと注記しています。また、研修の実施記録は、秘密保持等の確認文書としては例示されていません。
重さを知る:命令と罰則、従業者個人の守秘義務
個人情報保護委員会は報告徴収、立入検査、指導・助言、勧告、命令を行うことがあり(法第146条から第148条)、命令に違反すると行為者に1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、法人に1億円以下の罰金が定められています(第178条・第184条)。国のQ&Aは、漏えい等が起きた場合、事業者は安全管理措置と従業者の監督の義務違反を問われる可能性があり、民事上の責任を問われる可能性もある、としています。
従業者個人については、事業者や従業者、またはこれらであった者が、業務で取り扱った個人情報データベース等を自己または第三者の不正な利益を図る目的で提供し、または盗用したときは、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(第179条)。法人にも1億円以下の罰金が定められています(第184条)。
この罰則は、令和8年7月17日公布の改正法で改まります。施行は2027年1月17日です(次の節)。改正後は、不正提供の罰則(現行第179条)が第178条となり、法定刑が2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に上がるほか、不正取得の罰則(第180条)が新設されます。上の条番号と法定刑は、2027年1月16日までの現行の条文のものです。
資格にも守秘義務があります。介護福祉士は、社会福祉士及び介護福祉士法第46条により、資格を失った後も業務で知り得た秘密を漏らしてはならず、違反は1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(第50条。告訴がなければ公訴を提起できません)。
令和8年7月に公布された改正法:罰則は2027年1月17日、そのほかは公布から2年以内。研修は現行の条文で組む
個人情報保護委員会によると、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」は、令和8年7月10日に成立し、7月17日に公布されました。令和2年改正法の附則が定める「3年ごと見直し」に基づく改正です。原則として公布の日から起算して2年を超えない範囲内で政令で定める日に施行されます。2026年10月26日時点で、委員会のページに具体的な施行日の記載は確認できず、政令・規則・ガイドラインを整備している段階です。
ただし例外があります。委員会が掲載している改正法の条文の附則第1条第3号は、個人情報保護法の罰則の規定(第176条以降の罰則の改正、不正取得罪などの新設、条番号の繰下げ)などを、公布の日から起算して6月を経過した日から施行すると定めています。公布は令和8年7月17日ですから、日付は2027年1月17日です(日付は公布日からの計算です)。罰則は、ほかの規定より先に施行されます。
委員会の概要資料に、介護事業所に関係しそうな改正内容として、次の記載があります(このほか、悪質な違反行為への課徴金制度なども設けられます)。条文の細目や政令・規則はこれから決まります。
- 漏えい等が発生した場合に、本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ないときは、本人への通知義務を緩和する(第26条第2項)。
- 個人情報データベース等の不正提供等の罰則について、加害目的の提供も処罰対象とし、法定刑を引き上げる。詐欺行為等による不正取得の罰則も設ける(第178条から第180条)。
2027年1月17日から変わる罰則:条文で確かめたこと
改正法の条文(第1条による個人情報保護法の改正)で、民間の事業者に関わる罰則は次のとおりです。いずれも2027年1月17日の施行です(附則第1条第3号)。
- 不正提供・盗用の罰則(現行第179条が第178条になります):事業者の役員・従業者・これらであった者が、業務で取り扱った個人情報データベース等を提供し、または盗用する目的に、「本人その他の者に損害を加える目的」が加わります(これまでは自己または第三者の不正な利益を図る目的)。法定刑は、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金から、2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に上がります。
- 不正取得の罰則(第180条の新設):自己または第三者の不正な利益を図る目的、または本人などに損害を加える目的で、人を欺き、人に暴行を加え、人を脅迫する行為や、財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為などにより、個人情報を取得したときは、2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。刑法その他の罰則の適用は妨げられません。
- 命令違反の罰則:現行の第178条(個人情報保護委員会の命令への違反)は削られ、第181条が新設されて、措置命令に違反したときは1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金とされます。
- 条番号:現行の第181条から第185条は、第182条から第186条に繰り下がります。法人に罰金を科す規定は、現行の第184条から第185条になります。
- 行政機関等の職員の規定(現行の第176条・第180条)も改正されます(第176条は3年以下の拘禁刑または150万円以下の罰金)。介護事業所のうち公的機関の職員に関わる場合は、条文でご確認ください。
研修の回数・時間・記録:決まっていること、いないこと
運営基準、法、通則編ガイドライン、医療・介護ガイダンス、Q&Aのうち、個人情報保護の研修の回数、時間、対象者の範囲、講師、新規採用時の実施を定めた記載は、確認した範囲で見当たりませんでした。虐待防止や感染症対策のように「年何回」と明記されたテーマとは、ここが違います。
- 決まっていること:秘密保持と文書による同意(運営基準)。安全管理措置・従業者の監督(法)。「従業者の教育」が講じなければならない措置であること(通則編)。研修の機会の確保(運営基準)。
- 決まっていないこと:回数、時間、内部か外部か、全職員か一部か、新規採用時に必ず行うか。
- 記録:様式の定めはありません。日時、内容、参加者、資料、欠席者へのフォローを残しておくと安心です(当社の提案)。迷う点は、指定権者(都道府県・市町村)または個人情報保護委員会に確認してください。
研修で扱う内容:条文と国のガイダンスに沿って組み立てる
研修の中身を定めた通知はありません。次の項目は、運営基準、法、通則編、ガイダンス、Q&Aの内容を、現場の職員が知っておくべき順に並べたものです。
- 土台:運営基準の秘密保持と法の安全管理措置の意味。何が個人情報・要配慮個人情報か(氏名、写真、被保険者番号、記録、病歴、障害)。この研修は4つの措置(組織的、人的、物理的、技術的)のうち人的措置。
- 場面:同意が要る場面(サービス担当者会議、他施設への移動、写真、外部からの照会、面会の問い合わせ)と、事故の型・初動(持ち出し、紛失、誤送信、立ち話)。
- 自事業所のルール:利用目的の掲示場所、同意書と誓約書の様式、持ち出しの可否、報告連絡の先、委託先・退職者・新人への対応。
60分の進め方(時間割の提案)
本サイトの「個人情報・プライバシー保護研修キット」は、レジュメ約30分と確認テスト10問、実施記録様式、出席簿の構成です。これに事業所のルールの確認を足して、60分に組む例を示します。時間配分と順序は法令の定めではなく、当社の構成提案です。事業所の状況に合わせて組み替えてください。
- 導入(5分):今日の研修の目的を一言伝え、出席を確認する。出席簿を回して署名してもらう。
- レジュメの読み上げ(30分):キットのレジュメをそのまま読み上げる。個人情報とは何か、守るための措置、ありがちな漏えい場面、漏らしたときの初動、退職後も続く義務を確認する。
- 自事業所のルールの確認(10分):利用目的の掲示場所、同意書と誓約書の様式、記録の持ち出しルール、事故のときの報告先と連絡方法を、実物を見ながら確認する。
- 確認テスト(10分):キットの確認テスト10問(解答・解説つき)に取り組む。次の節の追加問から1〜2問を足してもよい。
- 記録の記入(5分):実施記録をその場で書き終える。欠席者のフォロー日を決めて書き添える。
- 短くするとき:導入と自事業所のルールの確認を5分ずつに縮める。新人向けに単独で行うなら、読み上げ、確認テスト、誓約書の説明と署名、記録の順に絞る。研修で実際の事例を使うときは、氏名や日付など個人が特定できる記述を消してから使う(国のQ&Aの考え方)。
確認テストの追加問(記事の内容に沿った例)
次の3問は、本記事の内容から作った例で、キットの10問に足して使えます。正答と根拠もあわせて示します。
- 問1:ホームページに載せる行事の写真に利用者の顔が写っている。掲載前に必要なことは? 答:原則として本人の同意を得る。個人を識別できる写真は個人情報(国のQ&A)。
- 問2:サービス担当者会議で家族の情報を使うために必要なことは? 答:家族の同意を、あらかじめ文書で得ておく(居宅系の運営基準の第3項)。サービス提供開始時に包括的に得ておけば足りるとされる(解釈通知)。
- 問3:要配慮個人情報を含む記録の入ったUSBメモリを紛失したかもしれない。最初にすることは? 答:責任ある立場の者へ直ちに報告し、被害が拡大しない措置を講じる。報告対象事態なら、個人情報保護委員会へ速やかに報告(目安は概ね3〜5日以内)し、本人へ通知する。
記録・様式:研修の記録と、あわせて整えておく文書
研修を実施した証拠として、実施記録と出席簿を残します。記録は研修の時間内に完成させる運用がおすすめです。あわせて整えておく文書は次のとおりです。
- 研修の記録:実施記録と出席簿に、日時、内容、参加者、講師、資料、欠席者のフォローを書く。
- 事業所の文書:個人情報の取扱規程と利用目的の掲示、利用に関する同意書、従業者の秘密保持誓約書と就業規則の守秘義務の条項、委託契約書、漏えい等の報告連絡体制の図(運営基準、解釈通知、ガイダンス)。
無料で使える個人情報保護研修キット
本サイトの「個人情報・プライバシー保護研修キット」には、そのまま読み上げられるレジュメ、確認テスト10問、実施記録様式、出席簿がそろっています。登録不要・無料で、入力内容はお使いのブラウザ内にのみ保存され、外部には送信されません。全職員向けの定期研修にお使いください。キットは個人情報保護の基本を30分でまとめたもので、自事業所の規程や様式の確認は、上の60分の進め方のように別に時間を取るのがおすすめです。
この記事で確認した一次資料
2026年10月26日に、下の「出典」に挙げた資料を取得し、該当箇所を確かめました。法令は e-Gov の法令API(v2)の現行条文(個人情報保護法は令和8年10月1日施行版、施行令は令和8年9月30日施行版)、ガイドラインとガイダンスは個人情報保護委員会のページ掲載の最新版と新旧対照表、解釈通知は厚生労働省の法令等データベース掲載版、令和8年改正法の施行期日と罰則の改正は委員会掲載の改正法の条文(PDF)の附則第1条と第1条です。最終的な取扱いは、指定権者(都道府県・市町村)または個人情報保護委員会にご確認ください。
この記事を書いたチームは、note でも介護の仕事で考えたことを書いています。note をフォローする
出典(一次資料)
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)
- 個人情報の保護に関する法律施行令(平成15年政令第507号・令和8年9月30日施行版)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(令和8年6月14日施行の一部改正・別添「講ずべき安全管理措置の内容」ほか・2026年10月26日確認)
- 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日・令和8年4月一部改正・2026年10月26日確認)
- 個人情報保護委員会・厚生労働省「「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に関するQ&A(事例集)」(平成29年5月30日・令和8年4月一部改正・PDF)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)
- 指定居宅サービス等の運営基準(平成11年厚生省令第37号)第30条第3項「その研修の機会を確保しなければならない」(訪問介護。他のサービスも同趣旨の規定)
- 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)
- 介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成30年厚生労働省令第5号)
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)
- 厚生労働省 法令等データベース「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準について」(平成11年9月17日 老企第25号)=訪問介護の秘密保持等の解釈
- 厚生労働省 法令等データベース「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について」(平成12年3月17日 老企第43号)=秘密保持等の解釈
- 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」(令和6年7月改訂)
- 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」別添 確認項目及び確認文書(令和6年7月改訂・PDF)
- 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)
- 社会福祉士及び介護福祉士法(昭和62年法律第30号)第44条の2・第45条・第46条・第47条の2
- 個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」(令和8年7月17日公布・2026年10月26日確認)
- 個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法等の一部を改正する法律について」(令和8年7月・PDF)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」の条文(令和8年7月17日公布・附則第1条=施行期日、第1条=個人情報保護法の改正・PDF・2026年10月26日確認)
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