介護のカスハラ対策は2026年10月1日から義務|事業主が講ずべき措置・研修・訪問介護の2人対応(改正労働施策総合推進法と指針)
更新日:2026-10-26・約13分で読めます
利用者や家族からのカスタマーハラスメント(カスハラ)への対策は、改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、2026年10月1日から事業主の雇用管理上の措置義務です。介護事業所も対象で、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は「施設・サービスの利用者及びその家族」を顧客等の例に挙げています。何がカスハラに当たり、事業主は何を講じなければならないのか、研修はどの場面で必要になるのか、介護の運営基準(カスハラは「推奨」のまま)とどう関係するのかを、法律・指針・運営基準・解釈通知の原文で整理しました(2026年10月時点)。
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まず結論:介護事業所もカスハラ対策は義務。研修は周知・啓発の方法の例
改正後の労働施策総合推進法第33条第1項は、顧客等の言動のうち社会通念上許容される範囲を超えたものによって労働者の就業環境が害されないよう、相談に応じて適切に対応するための体制の整備や、抑止のための措置などの雇用管理上必要な措置を講じることを、事業主に義務づけています。施行日は、令和8年政令第17号で2026年10月1日と定められました。条文は事業主の規模や業種を限っていないため、介護事業所も対象です。
研修そのものを義務づける条文はありません。指針は、方針や対処の内容を労働者に周知・啓発する方法の例として「研修、講習等を実施すること」を挙げています。研修は、措置義務を果たすための代表的な手段という位置づけです。
- 根拠:労働施策総合推進法第33条(措置義務)・第34条(責務)。具体的な内容は指針(令和8年厚生労働省告示第51号)。
- いつから:2026年10月1日(令和8年政令第17号)。
- 対象:すべての事業主(条文に規模・業種の限定なし)。指針は「施設・サービスの利用者及びその家族」を顧客等の例に挙げています。
- 講じなければならない措置:①方針の明確化と周知・啓発 ②相談体制の整備 ③事後の迅速かつ適切な対応 ④特に悪質なものへの抑止のための措置 ⑤プライバシーの保護と、相談を理由とする不利益な取扱いをしない旨の周知。
- 研修:法律上の明文の義務ではありません。指針が周知・啓発や相談窓口担当者の対応の方法の例として挙げています。回数の定めはありません。
- 介護の運営基準:パワハラ・セクハラの防止措置は令和3年度改定から義務。カスハラは運営基準上「推奨」のままで、法律上の義務とは根拠が別です。
- 違反した場合:厚生労働大臣の助言・指導・勧告の対象で、勧告に従わないときは公表されることがあります(第42条)。
根拠:法律の条文(第33条・第34条)
第33条(職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)と第34条(同じく国、事業主、労働者及び顧客等の責務)は、2026年10月1日に加わった規定です。要点は次のとおりです。
- 第33条第1項:顧客等=「顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者」。その言動で、労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより就業環境が害されないよう、相談に応じて適切に対応するために必要な体制の整備、抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。
- 第33条第2項:相談したことや、事業主の対応に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。
- 第33条第3項:他の事業主から措置の実施に必要な協力を求められたときは、応じるよう努めなければなりません。
- 第33条第4項:厚生労働大臣が指針を定めます(=令和8年厚生労働省告示第51号・2026年10月1日から適用)。
- 第34条第2項:事業主は、労働者の関心と理解を深め、労働者がほかの事業主の雇用する労働者への言動に必要な注意を払うよう「研修の実施その他の必要な配慮」をするよう努めなければなりません(努力義務)。
同じ改正で動いた条番号:パワハラは第31条へ、セクハラと求職者等は均等法
職場のパワーハラスメントの措置義務は、同じ改正で条番号が第30条の2から第31条に移りました(措置義務であることは変わりません)。セクシュアルハラスメントの措置義務は男女雇用機会均等法第11条です。また、同じ2026年10月1日から、均等法第13条により、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置も義務になりました。厚生労働省のリーフレットは、求職者等に「教育実習、看護実習その他の実習を受ける者」を含むとしています。実習生を受け入れる事業所は、あわせて確認しておきましょう。
何がカスハラに当たるか:3つの要素と、当たらないもの
指針は、①顧客等の言動であって、②労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、の3つを全て満たすものをカスハラとしています。電話やSNSなどインターネット上で行われるものも含みます。「職場」には顧客の自宅等も含まれるため、訪問系サービスで伺う利用者の自宅も職場に当たります。
一方で、苦情の全てがカスハラになるわけではありません。指針は、社会通念上許容される範囲で行われたものは「いわば正当な申入れ」でカスハラには当たらないとしています。障害のある人が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体も、カスハラには当たりません。また、事業主や労働者の側の不適切な対応が言動の原因や背景になっている場合もあることに留意するよう求めています。
指針が挙げる典型例は次のとおりです。限定列挙ではなく、個別の事案によって判断が異なることもあります。
- 言動の内容が範囲を超えるもの:理由がない、またはサービスと全く関係のない要求(性的な要求、労働者のプライバシーに関わる要求など)、契約等で想定するサービスを著しく超える要求、対応が著しく困難・不可能な要求、不当な損害賠償要求。
- 手段や態様が範囲を超えるもの:身体的な攻撃(殴る・蹴る、物を投げつける、つばを吐きかける等)、精神的な攻撃(脅迫、中傷、侮辱、暴言、土下座の強要、無断での撮影等)、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、拘束的な言動(長時間の居座りや電話での拘束等)。
- 就業環境が害されたかどうかは「平均的な労働者の感じ方」を基準に判断します。強い身体的・精神的苦痛を与える態様なら、1回でも該当し得るとされています。
事業主が講じなければならない措置(指針の4)
指針の4は、事業主が「講じなければならない」措置を次のように定めています。厚生労働省のリーフレットは、これを10項目に整理しています。
- 方針の明確化と周知・啓発:①カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確にし、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する。②カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を周知する。
- 相談体制の整備:③相談窓口をあらかじめ定めて周知する(他のハラスメントの窓口と一体でもよい)。④窓口の担当者が適切に対応できるようにする(カスハラに当たるか微妙な場合も広く相談に応じる)。
- 事後の迅速かつ適切な対応:⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する。⑥被害者への配慮の措置を行う(担当の変更や複数人での対応、メンタルヘルス不調への相談対応など)。⑦再発防止の措置を講じる(事実が確認できなかった場合も同様)。
- 抑止のための措置:⑧特に悪質なものへの対処の方針をあらかじめ定めて周知し、対処できる体制を整える(例:警察への通報、警告文の発出、法令の制限内でのサービス提供の停止、出入りの禁止、仮処分命令の申立て)。
- 併せて講ずべき措置:⑨相談者等のプライバシーを守る措置を講じ、周知する。⑩相談や協力等を理由に不利益な取扱いをしない旨を定め、周知・啓発する。
その場の「対処の内容」の例(指針)
その場の「対処の内容」の例として、指針は、管理監督者等に直ちに報告して指示を仰ぐ、可能な限り一人で対応させない、やり取りを録音・録画する(個人情報保護法等を守って扱う)、十分に説明しても要求が繰り返される場合は一定の時間で退去を求める・電話を切る、暴行・傷害・脅迫などの犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、などを挙げています。これも限定列挙ではなく、各事業主が実態に応じて定めるものです。
介護の運営基準との関係:パワハラ・セクハラは義務、カスハラは「推奨」のまま
介護の運営基準は、令和3年度改定から、すべての介護サービス事業者に職場のハラスメント防止の「方針の明確化等の必要な措置」を義務づけています。例えば訪問介護の基準(平成11年厚生省令第37号)第30条第4項が対象にしているのは「性的な言動又は優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」で、e-Gov で確認した現行の条文(2026年10月時点)にカスハラの文言はありません。
カスハラについて、解釈通知(令和3年度改正)は、事業主が講じることが「望ましい取組」として、相談体制の整備、被害者への配慮(行為者に1人で対応させない等)、被害防止の取組(マニュアルの作成や研修の実施等)を挙げています。そのうえで、介護現場では特に利用者や家族等からのカスハラの防止が求められていることから、厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」「研修のための手引き」等を参考にした取組が望ましいとしています。厚生労働省の介護現場向けページも、カスハラは防止のための措置を「推奨」していると説明しています。
つまり介護事業所は、運営基準の上では「推奨」でも、2026年10月1日からは労働施策総合推進法の上で措置義務を負います。根拠が別なので、どちらか一方を満たせばよいという関係ではありません。運営基準や解釈通知が今後改正された場合は、指定権者(都道府県・市町村)の案内もあわせて確認してください。
介護ならではの注意点:サービスを止める判断と、訪問介護の2人対応
指針は、各業法等でサービス提供の義務等が定められている場合や、サービスが途絶えると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合等があることに留意して対応するよう求めています。介護の運営基準には、正当な理由なくサービスの提供を拒んではならない規定があります(訪問介護は第9条)。
厚生労働省の介護現場向けページは、利用者や家族等からのハラスメントが「すべからく『正当な理由』に当たるわけではない」としつつ、事案によってはサービスの提供を拒否することも考えられる、と説明しています。あわせて、正当な理由で提供が難しい場合には、居宅介護支援事業者への連絡や適当な他の事業所の紹介など必要な措置を速やかに講じる規定(訪問介護は第10条)があるため、利用者に必要なサービスに支障がないよう対応するよう求めています。特に悪質な場合の対処方針(措置⑧)にサービスの停止を入れるときは、この関係を踏まえて手順を決めておく必要があります。
訪問介護では、利用者または家族等の同意を得ていて、暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等が認められる場合に、2人の訪問介護員等でサービスを提供できます。この場合の報酬は所定単位数の200/100で、利用者負担も2倍になります。同意が得られない場合に備えて、地域医療介護総合確保基金を使い、同行する人への謝金を助成できる仕組みもあります。都道府県がこの事業を行っているかを確認しておくとよいでしょう。
研修で扱うこと:指針に「研修」が出てくる場面
指針で研修が出てくるのは、次の場面です。いずれも措置を講じる方法の例で、年何回といった回数の定めはありません。
- 方針と対処の内容を労働者に周知・啓発するための研修・講習(指針4⑴イ・ロ)。
- 相談窓口の担当者が相談を受けた場合の対応についての研修(4⑵ロ)と、相談者等のプライバシーを守るための担当者の研修(4⑸イ)。
- 再発防止として、方針と対処の内容を周知・啓発する研修を改めて行う(4⑶ハ)。
- 望ましい取組として、接客・サービス・苦情への対応の研修や、障害特性などへの理解を深める研修(6⑴)。
- 自社の職員がほかの事業主の労働者にカスハラをしないよう注意を払わせるための研修(法第34条第2項・努力義務)。
介護事業所の職員研修でそろえておく内容
介護事業所の職員研修では、次の内容をそろえておくと、措置の①②③⑩を一度に周知できます。利用者の病気や障害の特性による言動をすぐにカスハラとして扱うのではなく、ケアの見直しで対応すべき場面かどうかを検討する視点も、指針が正当な申入れや障害のある人への配慮に留意を求めていることとあわせて扱っておくと、現場で迷いにくくなります。
- カスハラの3つの要素と典型例、正当な申入れとの違い。
- 事業所の方針と、その場の対処(管理者への報告、1人で対応しない、記録、警察へ通報する基準)。
- 相談窓口の場所と、相談しても不利益に扱われないこと、プライバシーの守り方。
- 訪問時の対応(利用者の自宅も職場であること、2人訪問の条件、サービスを続けるかどうかは管理者が判断すること)。
違反した場合と、相談先
厚生労働大臣は、第33条第1項・第2項に違反している事業主に勧告をし、従わないときはその旨を公表できます(第42条)。カスハラの措置をめぐる労働者と事業主の紛争は、都道府県労働局長による助言・指導・勧告や、紛争調整委員会による調停の対象です(第35条〜第38条)。援助や調停を求めたことを理由とする不利益な取扱いも禁止されています。厚生労働省のリーフレットの問い合わせ先は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。
東京都の事業所は条例も
東京都では、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が2025年4月1日に施行されています。何人もカスハラを行ってはならないこと(第4条)、顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意すること(第5条)、事業者は手引の作成等の必要な措置を行うよう努めなければならないこと(第14条)を定めています。全国一律の法律上の措置義務とは根拠が別なので、都内の事業所は両方を踏まえて方針を作ると整理しやすくなります。
まずやること3つ
- 1. 方針と対処の内容を文書にする:「カスハラには毅然とした態度で対応し、職員を守る」という方針、その場の対処(管理者への報告、1人で対応しない、記録、警察へ通報する基準)、特に悪質な場合の対処方針(サービスを続けるかどうかの判断の手順を含む)を決めます。
- 2. 相談窓口を決めて周知する:パワハラ・セクハラと一体の窓口でもかまいません。相談者のプライバシーを守ることと、相談を理由に不利益に扱わないことを就業規則などに定めて周知します。
- 3. 研修で全職員に周知する:このサイトの「ハラスメント対策研修キット(カスハラ中心)」には、そのまま読み上げられるレジュメ、確認テスト10問、実施記録様式、出席簿がそろっています。登録不要・無料で、入力内容はお使いのブラウザの中にだけ保存されます。「この記事に関連する無料キット・一覧」から開けます。
この記事で確認した一次資料
本文の条番号・措置の内容・施行日・報酬の率は、次の一次資料の原文で2026年10月26日に確認しました(リンクは記事末尾の「出典(一次資料)」)。最終的な適用は、労働分野は都道府県労働局、介護保険の運営基準は指定権者(都道府県・市町村)へご確認ください。
- 労働施策総合推進法(2026年10月1日施行の改正後の条文)、令和8年政令第17号、男女雇用機会均等法。
- 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)と、厚生労働省のリーフレット。
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)と、介護保険最新情報 Vol.934(令和3年度改正の解釈通知)。
- 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」、介護報酬の算定構造(令和6年4月)、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例の施行のお知らせ。
この記事を書いたチームは、note でも介護の仕事で考えたことを書いています。note をフォローする
出典(一次資料)
- 労働施策総合推進法(昭和41年法律第132号)第31条(パワーハラスメント)・第33条(カスタマーハラスメント)
- 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和8年政令第17号・PDF)
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号・PDF)
- 厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」
- 男女雇用機会均等法(昭和47年法律第113号)第11条
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)
- 介護保険最新情報 Vol.934(令和3年度改定・解釈通知改正)
- 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
- 厚生労働省「介護報酬の算定構造」(令和6年4月改定・PDF)
- 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(2025年4月1日施行・東京都広報)
【免責事項】本キットは研修実施の参考資料です。法令・運営基準・介護報酬の内容は改定されることがあります。実際の運用にあたっての最終確認は、指定権者(都道府県・市区町村等の自治体)へのご確認をおすすめします。本キットの利用により生じた損害について、当社の損害賠償責任は、故意・重過失を除き購入代金の額を上限とします。