介護の転倒予防研修の組み立て方|要因の分け方・環境点検・転倒後の対応(2026)
更新日:2026-11-04・約23分で読めます
介護の転倒予防研修は、事故防止の研修のうち「転倒」に絞って、転倒の起きる場面と要因の分け方、自施設の報告から傾向を出す演習、環境点検、介助の基本、身体拘束に頼らない対策、転倒後の対応、研修後の評価までを1回で通すものです。運営基準は、特養・老健・介護医療院などに事故発生の防止のための委員会と研修を定期的に行うことを求め、解釈通知は研修を年2回以上と新規採用時に行うこととしています。訪問介護・通所介護などには、事故が起きた時の連絡・記録・賠償が定められています。この記事は、省令・解釈通知・運営指導の確認項目・事故予防のガイドライン(令和7年11月)・身体拘束廃止・防止の手引き(令和7年3月)・事故報告の標準様式をページ番号つきで確かめ、60〜90分の研修の組み立て方を整理しました(2026年11月時点)。介助の手技や、薬・けがの医療的な判断は書いていません。手技は所定の研修やOJTで、医療的な判断は看護職員・主治医に確認してください。
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研修キット(レジュメ・確認テスト・記録様式)
まず結論:転倒予防研修は、事故防止の研修の1回を「転倒」に絞って組み立てる
事故予防のガイドライン(令和7年11月)は、介護施設等でよく起きる事故として、転倒・転落、誤嚥・窒息、異食、誤薬・与薬漏れ、医療処置における事故、外出・送迎時の事故などを挙げています(印字8ページ)。転倒については、多くの介護施設等で発生し、各施設が最も意識して未然防止や再発防止に取り組んでいる事故の一つである一方、原因は身体要因から精神要因、環境要因まで多様で、「防ぐことが難しい転倒」も数多くあるとしています(印字30ページ)。
確認した法令には、「転倒予防研修」という名前の研修を行う義務はありません。施設系の運営基準が求めているのは、事故発生の防止のための研修を定期的に行うことです。転倒予防研修は、その研修の1回を転倒に絞り、要因の分け方から転倒後の対応、研修後の評価までを通す回として組み立てると、事故防止の研修の記録としても、現場の改善の材料としても使えます(当社の整理)。
早見表(2026年11月時点):
- 根拠:特養(平成11年厚生省令第39号)第35条第1項第3号、老健(平成11年厚生省令第40号)第36条、介護医療院(平成30年厚生労働省令第5号)第40条、地域密着型介護老人福祉施設(平成18年厚生労働省令第34号)第155条=事故発生の防止のための委員会と従業者に対する研修を定期的に行う。
- 回数:特養の解釈通知(老企第43号)は、研修プログラムを作成し、定期的な教育(年2回以上)を開催するとともに、新規採用時には必ず事故発生の防止の研修を行うこと、研修の実施内容を記録することを求めています。
- 在宅系:訪問介護(平成11年厚生省令第37号)第37条、通所介護 第104条の3などは、事故が起きた時の市町村・家族・居宅介護支援事業者等への連絡、事故の状況と採った処置の記録、賠償を定めています。
- 研修の前提:転倒には「対策を取り得る転倒」と「防ぐことが難しい転倒」がある(ガイドライン 印字8・30ページ)。過度な転倒防止策は身体拘束につながるリスクがある(印字30ページ)。
- 組み立て(当社の整理):①要因の分け方(環境/体調・薬/動作・介助/用具)②自施設の報告から傾向を出す演習 ③環境点検のチェック ④介助の基本 ⑤身体拘束に頼らない対策 ⑥転倒後の対応 ⑦確認テストと宿題 ⑧記録。
- 書かないこと:介助の手技、薬の変更やけがの診断などの医療的な判断。手技は所定の研修・OJTで、医療的な判断は看護職員・主治医に確認します。
根拠:施設は事故防止の研修が義務、在宅系は事故発生時の対応が義務
特養の基準第35条第1項は、事故の発生又はその再発を防止するため、①事故が発生した場合の対応、報告の方法等が記載された事故発生の防止のための指針の整備、②事故が発生した場合又はそれに至る危険性がある事態が生じた場合に、当該事実が報告され、その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する体制の整備、③事故発生の防止のための委員会及び従業者に対する研修を定期的に行うこと、④これらを適切に実施するための担当者を置くこと、を求めています。老健・介護医療院・地域密着型介護老人福祉施設にも同じ形の条があります。
解釈通知(老企第43号)は、研修の内容として、事故発生防止の基礎的内容等の適切な知識を普及・啓発するとともに、施設の指針に基づき安全管理の徹底を行うものとしています。指針に盛り込む項目には「介護事故の防止のための職員研修に関する基本方針」があります。転倒予防研修は、指針の基本方針に沿った回として研修計画に位置づけると、つながりが説明しやすくなります(当社の整理)。
訪問介護・通所介護などの在宅系には、事故防止の指針・委員会・研修を求める同じ形の条は、確認した範囲ではありません。ただし事故が起きた時の連絡・記録・賠償は義務で、送迎時の乗降や訪問先での転倒は在宅系でも起きます(ガイドライン 印字44ページ)。在宅系では、事業所の研修計画の中で転倒を扱う回を作る、という位置づけになります(当社の整理)。
- 確認した条文(e-Gov法令検索・2026年11月4日):平成11年厚生省令第39号 第11条第4項・第35条、平成11年厚生省令第40号 第36条、平成30年厚生労働省令第5号 第40条、平成18年厚生労働省令第34号 第155条、平成11年厚生省令第37号 第37条・第104条の3。
- その他のサービス:お使いのサービスの条番号は、それぞれの運営基準で確認してください。運営基準は条例で定められているため、指定権者(都道府県・市区町村)の条例も確認します。
- 事故防止の研修全体(回数・減算・記録)は、事故防止研修の記事で整理しています。
研修の前提:「対策を取り得る転倒」と「防ぐことが難しい転倒」を分ける
ガイドラインは、事故には「対策を取り得る事故」と「防ぐことが難しい事故」があり、適切なリスク評価とアセスメントに基づいて両者を仕分けし、前者は起こさないという意識で未然防止と再発防止に取り組むよう述べています。過去の裁判例でも示されているとおり、介護施設等で発生するすべての転倒や誤嚥等が施設の過失による事故であるとは限らない、としています(印字8ページ)。
同じガイドラインのコラムは、日本老年医学会と全国老人保健施設協会が2021年に表明した「介護施設内での転倒に関するステートメント」を抜粋で紹介しています。転倒すべてが過失による事故ではないこと、ケアやリハビリテーションは原則として継続すること、転倒についてあらかじめ入所者・家族の理解を得ること、転倒予防策と発生時対策を講じその定期的な見直しを図ること、の4点です(印字47ページ)。
研修の冒頭でこの考え方を共有しておくと、「転倒を一件も起こさない」ために利用者の動きを止める方向ではなく、対策を取り得る転倒を確実に減らす方向で話し合えます(当社の整理)。
- 伝えたいこと(当社の整理):転倒はゼロにはならない。だからこそ、対策を取り得る転倒を見つけて減らし、転倒してもけがを小さくし、転倒した時に正しく動く。
- 生活の場であること:ガイドラインは、介護施設等はあくまで生活の場であり、事故を防ぐためといって日常の行動を制限することは高齢者の自立を支えることにつながらない、としています(印字7ページ)。
60〜90分の組み立て例(当社の整理)
ガイドラインは研修について、職員が無理なく参加できるよう研修時間の調節や複数回の実施などを工夫すること、講義形式だけでなくワークショップ等の職員参加型の研修も有用で、施設内の実事例を用いることで自施設に合ったリスク予測や対策を自分事として考えられることを挙げています。見守り機器で撮影した写真を使ったリスク予測のワークショップや、事例を用いた原因分析の演習を行っている施設もある、としています(印字15ページ)。
これを踏まえて、講義と演習を半分ずつにした例を示します。時間は施設の体制に合わせて伸び縮みさせてください。
- 導入(5分):研修の目的、「対策を取り得る転倒」と「防ぐことが難しい転倒」。
- 講義1(10〜15分):転倒の起きる場面と、要因の4つの分け方(環境/体調・薬/動作・介助/用具)。
- 演習1(15〜20分):自施設のヒヤリハット・事故報告から、場所・時間帯・場面の傾向を出す。
- 演習2(10〜15分):環境点検のチェック項目を、自分の担当フロアで作る。
- 講義2(10〜15分):介助の基本の確認、身体拘束に頼らない対策、転倒後の対応の流れ。
- まとめ(5〜10分):確認テスト、環境改善の宿題を決める、振り返り。
- 60分に収める時:演習2を宿題に回し、講義1と講義2を短くします。事故防止全般は無料の事故防止研修キット(30分)で先に行い、別の回でこの記事の演習を行う、という分け方もできます。
講義1:転倒の起きる場面と、要因の4つの分け方
ガイドラインは、転倒の原因は身体要因から精神要因、環境要因に至るまで多様で複雑に絡み合っているため、画一的な対策は適さないとし、身体機能、認知機能、行動パターンなどのアセスメントに限らず、元々の生活環境についても詳しく聞き取り、ベッドの位置や家具の配置なども含めて環境整備を行うことが重要だとしています(印字30ページ)。研修では、職員が要因を見落とさないよう、4つの見方に分けて示すと話し合いやすくなります(当社の整理)。
- 環境:床の段差・濡れ・物、照明、手すり、ベッドや椅子の位置、通路の幅。ガイドラインの事例では、机と壁の間が狭い通路になっていて、歩き出した時に安全を確保しにくい環境が要因の一つとされています(印字31ページ)。
- 体調・薬:体調不良をきっかけにした歩行時のふらつき(印字10ページ)、せん妄、脱水や便秘、薬の追加や変更(印字32・33ページ)。薬が関係するかどうかの判断と、薬の変更そのものは、看護職員・主治医・薬剤師の領域です。研修では「薬が変わった後は様子を共有する」という情報の流れを扱います(当社の整理)。
- 動作・介助:立ち上がり、移乗、歩行、夜間のトイレへの移動(印字32ページ)、送迎の乗降(印字44ページ)。職員の業務がひっ迫する配膳・下膳時や一斉起床介助時は、事故が起きやすい時間帯として挙げられています(印字20ページ)。
- 用具:車いす、ベッド柵、ナースコール、履物、見守り機器。ガイドラインは、見守り機器は利用者ごとにリスクを把握し、それぞれに適した運用を検討することが重要だとしています(印字30ページ)。
- 時期:入居直後や通所の利用開始直後は、職員が行動パターンを把握できていないことなどから事故の発生リスクが高い時期だとされています(印字16ページ)。
演習1:自施設のヒヤリハット・事故報告から、転倒の傾向を出す
ガイドラインは、事故とヒヤリ・ハット事例を施設内で一元的に収集・管理・分析して発生状況を把握する仕組みが重要であり、報告様式では事実と推測を明確に分け、本人・職員・環境それぞれの要因別に検討できるようにすることが効果的だとしています(印字17ページ)。特養の解釈通知も、報告された事例を委員会で集計・分析し、防止策を検討し、効果を評価することを挙げています(老企第43号)。
ガイドラインの事例では、介護記録やヒヤリ・ハットの情報を分析して、利用者が夕方に立ち上がろうとする傾向をつかみ、時間帯ごとに注意すべき利用者を決めて見守りと席の配置を変えています(印字31ページ)。演習では、この「記録から傾向をつかむ」作業を、自施設の報告で行います(当社の整理)。
- 使う材料(当社の整理):直近3〜6か月の転倒・転落のヒヤリハットと事故報告。演習用には氏名などを伏せた写しを使い、配った紙は研修後に回収します。
- 集計の軸:事故報告の標準様式(令和6年11月29日の通知の別紙)には、発生場所(居室・トイレ・廊下・食堂等共用部・浴室・脱衣室など)や発生日時、事故の種別(転倒・転落など)の欄があります。同じ軸で数えると、事故報告と見比べやすくなります。
- 出す問い(当社の整理):どの場所が多いか、どの時間帯が多いか、どの場面(立ち上がり・移乗・歩行・トイレ)が多いか、同じ利用者で繰り返していないか。
- 深掘り:ガイドラインは、「なぜ?」を繰り返す「なぜなぜ分析」と、当事者以外の要因も観点ごとに整理する「SHELL分析」を紹介しています。例として「トイレに向かう廊下で転倒」から、入浴介助の時間帯はフロアの職員が少ない、という要因まで掘り下げています(印字28ページ)。繰り返し起きている事案や、重大事故につながりかねない事案に絞って行うとよい、としています。
- 個人を責めない:解釈通知は、報告と改善の方策を周知する目的は再発防止であり、決して従業者の懲罰を目的としたものではないとしています(老企第43号)。演習でも、誰が担当だったかではなく、何がそうさせたかを話します。
演習2:環境点検のチェックを作る(居室・廊下・トイレ・浴室・夜間)
ガイドラインは、居室環境を調整するためのチェックシートを作り、利用者一人一人についてベッド柵の設置場所やベッド周囲の環境、移乗介助の際の車いすの位置等をまとめ、どの職員でも間違えずに居室環境を整えられるよう工夫している事例を紹介しています(印字16ページ)。転落についてはベッドからの転落が多く、ベッド周りの環境整備が重要だとしています(印字32ページ)。
身体拘束廃止・防止の手引き(令和7年3月)は、事故を防止する環境づくりとして、本人の動線に沿って手すりを設置する、足元に物を置かない、車椅子を体に合ったものに調整する、ベッドを低くする等の工夫で、転倒・転落の危険性は相当程度低下することが明らかになっている、としています(印字7ページ)。
- 居室(当社の整理):ベッドの高さと位置、ベッド柵の位置、ナースコールに手が届くか、車いすを置く位置、足元の物やコード、夜間の足元の明かり。
- 廊下・共用部(当社の整理):床の濡れと段差、通路の幅、手すりの途切れ、椅子や机の配置、食事の時間帯に立ち上がりやすい席の位置。
- トイレ(当社の整理):手すりの位置、便座の高さ、ナースコール、夜間に行く時の動線。
- 浴室・脱衣室(当社の整理):床の滑りやすさ、椅子の高さ、移動の動線、介助する職員の立ち位置。
- 夜間(当社の整理):巡回の時刻と回数、見守り機器の設定、トイレに行く人の把握。ガイドラインは早期発見のため、転倒の可能性の高い利用者に対する1時間に1回の所在確認といったマニュアルを取り入れることも効果的だとしています(印字25ページ)。
- けがを小さくする:ガイドラインは、転倒しやすそうな場所にあえてソファを置いてクッションの役割を持たせる環境調整を紹介しています(印字30ページ)。低床ベッドは、対象者によっては身体拘束に当たる可能性があるとの注意書きもあります(印字33ページ)。
- チェックの作り方(当社の整理):項目は1枚20個程度にとどめ、点検した日・点検者・直した点を書く欄を付けます。外部のリハビリテーション専門職に環境整備の助言を受ける連携も挙げられています(ガイドライン 印字18ページ)。
講義2-1:介助の基本(立ち上がり・移乗・歩行の見守り)は所定の研修・OJTで身につける
ガイドラインは、ケアに関する研修を行い職員一人ひとりの介護技術を向上させることが、事故防止だけでなく施設全体のケアの質の向上にもつながるとしています(印字15ページ)。介護度の高い高齢者では、骨粗しょう症の高齢者の移乗介助に伴う圧迫骨折や、移乗介助動作時の皮膚剥離なども見られるようになっている、としています(印字9ページ)。
立ち上がり・移乗・歩行の介助の手技は、利用者の状態ごとに違い、実際に体を動かして身につけるものです。この記事では手技を書きません。転倒予防研修では、手技そのものではなく、利用者ごとに決めた介助方法を全員が同じように行えているかを確かめる時間にします(当社の整理)。
- 確かめること(当社の整理):利用者ごとの介助方法(見守りか一部介助か、使う用具)が、ケアプランや個別の手順に書かれ、職員に伝わっているか。
- 入居・利用開始直後(ガイドライン 印字16ページ):1週間程度は行動パターンのメモを続け、複数の職員の目線で注意点を洗い出し、居室に掲示するなどして共有する事例が紹介されています。
- 送迎の乗降(印字44ページ):段差などがなく安全に乗降できる場所での停車をルール化する、自宅へは安全なところまで介助して送り届ける、といった対策の方向性が挙げられています。
- 手技の研修(当社の整理):介助の手技は、事業所の所定の研修やOJTで、リハビリテーション専門職や指導役の職員から教わってください。
講義2-2:身体拘束に頼らない転倒対策
ガイドラインは、利用者を寝たきりにさせてベッドから動かないようにすれば転倒は発生しないが、これは行動の自由そのものを奪う「身体的拘束等」に該当する可能性があり、身体拘束は介護施設等において原則禁止されている、と述べています(印字30ページ)。特養の基準第11条第4項は、入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為を行ってはならないとしています。
身体拘束廃止・防止の手引きは、身体拘束を廃止できない理由として「本人の転倒・転落事故を防ぐ必要がある」がしばしば挙げられるものの、身体拘束による事故防止の効果は必ずしも明らかでなく、逆に、無理に立ち上がろうとして車椅子ごと転倒したり、ベッド柵を乗り越え転落する等事故の危険性が高まることが報告されている、としています。そのうえで、まず転倒や転落を引き起こす原因を分析して未然に防ぐこと、次に事故を防止する環境づくりを挙げています(印字7ページ)。
- 転倒対策として出やすい行為(手引き 印字5ページの例示から):転落しないようにベッドに体幹や四肢をひも等で縛る、自分で降りられないようにベッドを柵(サイドレール)で囲む、車いすやいすからずり落ちたり立ち上がったりしないようにY字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける、立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。手引きは、これらはあくまで例示で、他にも身体拘束に当たる行為があるとしています。
- 緊急やむを得ない場合:手引きは、切迫性・非代替性・一時性の三つの要件をすべて満たすことと、その確認の手続きを極めて慎重に行うことを求めています(印字21ページ)。要件と手続きの詳しい中身は、身体拘束の3要件の記事で整理しています。
- 代わりの対策の例(ガイドライン 印字32・33ページ):排泄パターンに応じた誘導、日中の活動を増やして生活リズムを整える、薬の追加や変更の後に夜間の巡回を増やす、など。
- 演習の問い(当社の整理):「その対策は、本人の動きを止めていないか」「止めずに、原因を減らす方法はないか」を、演習1で出た事例ごとに確かめます。
講義2-3:転倒後の対応(初動・受診・連絡・記録)
ガイドラインは、事故が発生したらまず利用者の救命や安全確保を第一に行動し、その際の状況確認はルール化しておくとよいとしています。例として、転倒・転落事故の際は本人に状況を聞く他、目撃者がいた場合はその人からも話を聞く、頭を打っている場合は即受診する、といったことをルールで定めておくとよい、と挙げています。正確な状態把握には医学的知見が不可欠なため、看護職員を呼ぶか、不在の場合は電話連絡等で指示を仰ぐことも挙げています(印字25ページ)。
転倒後の対応は、緊急時対応マニュアルと事故報告の手順につながります。研修では、自施設のマニュアルのどこを見ればよいかを確かめ、流れを1回たどる程度にとどめ、詳しい手順は別の回や既存のマニュアルで扱います(当社の整理)。
- 初動(当社の整理):その場を離れずに人を呼ぶ、看護職員に連絡して指示を仰ぐ、発見時刻と最後に普段どおりだった時刻を控える。受診や救急要請の判断の基準は、配置医師・協力医療機関・主治医と相談して事業所で決めておきます。
- 連絡:運営基準は、事故が発生した場合の市町村・家族等(訪問介護などは居宅介護支援事業者等も)への連絡を求めています(特養 第35条第2項、訪問介護 第37条第1項)。
- 記録:事故の状況及び事故に際して採った処置の記録が必要です(特養 第35条第3項、訪問介護 第37条第2項)。
- 市町村への報告:死亡に至った事故と、医師(施設の勤務医、配置医を含む)の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故は、原則として全て報告します。第1報は遅くとも5日以内が目安です(令和6年11月29日の通知)。
- つなぎ先:急変時の連絡順や救急要請の目安は緊急時対応マニュアルの記事、報告書の書き方は事故報告書の記事、大事に至らなかった場面はヒヤリハット報告書の記事で整理しています。
本人・家族への説明を研修で扱う
ガイドラインは、生活の場である介護施設等では、個別の対策を講じても事故が起こる可能性が低くないため、事故が起きうるという事実を本人や家族に伝えて認識を共有すること、そのためにあらかじめリスクを予見し必要な対策を講じ、十分な説明を行うことが必要だとしています(印字7ページ)。入所時から発生しうるリスクについて十分な情報提供を行い、「対策を取り得る事故」と「防ぐことが難しい事故」に対する理解を求めることも挙げています(印字18ページ)。
転倒予防研修では、説明そのものは管理者や相談員が行う場合が多くても、現場の職員が家族から聞かれた時に同じ説明ができるよう、施設の考え方と、その利用者に取っている対策をそろえておきます(当社の整理)。
- 説明の材料(当社の整理):その利用者の転倒のリスク、取っている対策、それでも転倒は起こりうること、転倒した時の連絡の仕方。
- 認知症の方:ガイドラインは、適切な理解・判断が困難な利用者に対しても、説明しても分からないから何も説明しないのではなく、その方の権利や尊厳が尊重されるよう十分に配慮することが必要だとしています(印字7ページ)。
研修後の評価:確認テストと、環境改善の宿題
ガイドラインは、個々の利用者ごとの事故予防の取組と施設全体での取組を、それぞれPDCAサイクルで回すことを挙げています。例として、体調不良をきっかけに歩行時のふらつきが出てきた利用者に歩行介助を始めるのは個々の取組で、それを通して他の利用者のふらつきもアセスメントし、歩行介助が必要な利用者を洗い出すのが施設全体の取組だとしています(印字10ページ)。ステートメントの4点目も、対策や手順を定期的に見直すことを挙げています(印字47ページ)。
転倒予防研修は、聞いて終わりにせず、確認テストで理解を確かめ、演習で見つかった環境の課題を「宿題」として期限と担当を決め、次の委員会や次の研修で結果を確かめる形にすると、改善につながります(当社の整理)。
- 確認テストの例(当社の整理・○×):「転倒はすべて職員の過失による事故である」(×)、「転倒を防ぐためにベッドを柵で囲んで自分で降りられないようにするのは、身体拘束に当たりうる」(○)、「頭を打った転倒の受診の判断は、自施設で決めたルールに従う」(○)、「入居直後は事故のリスクが高い時期である」(○)。
- 宿題の例(当社の整理):演習2のチェックで見つかった点を3つまで選び、直す人と期限を決める。直した後に、同じ場所のヒヤリハットが減ったかを次の集計で確かめる。
- 振り返りの問い(当社の整理):「明日から自分の担当で変えることは何か」を一人一つ書いてもらい、実施記録に残します。
- 確認テストの作り方は、確認テストの記事で整理しています。
記録と運営指導での見せ方
介護保険施設等運営指導マニュアル(令和6年7月改訂)の別添「確認項目及び確認文書」は、介護老人福祉施設の「事故発生の防止及び発生時の対応(第35条)」について、事故発生の防止のための指針を整備しているか、市町村・入所者家族等に連絡しているか、事故状況・採った処置が記録されているか、事故発生の防止のための委員会及び従業者に対する研修を定期的に行っているか、担当者を置いているか、などを確認項目に挙げています。確認文書には、指針、委員会の開催状況及び結果がわかるもの、研修の計画及び実績がわかるもの、担当者を置いていることがわかるもの、などがあります(印字60ページ)。
転倒予防研修を行ったら、事故防止の研修の実績として記録し、研修計画にも位置づけておくと、確認文書の「研修の計画及び実績がわかるもの」に使えます。解釈通知も、研修の実施内容を記録することを求めています(老企第43号)(当社の整理)。
- 実施記録に残すこと(当社の整理):日時、参加者、講師、使った資料、内容(要因の分け方・演習・身体拘束に頼らない対策・転倒後の対応など)、確認テストの結果、決めた宿題。
- つながりを示す(当社の整理):演習1の集計表、演習2のチェック表、宿題の結果を、委員会の記録とあわせて保管すると、「報告→分析→改善→研修」の流れが一度に示せます。
- 新規採用時:解釈通知は、新規採用時に必ず事故発生の防止の研修を行うことを求めています。転倒の要因の分け方と転倒後の対応は、新人研修にも入れやすい内容です(当社の整理)。
- 記録の書き方は、研修の実施記録の記事で整理しています。
在宅系(訪問・通所・短期入所)で足しておくこと
ガイドラインは、ショートステイ(短期入所生活介護)では利用者が慣れない環境で過ごすため一般的に転倒・転落がリスクとして挙げられ、転倒・転落リスクの把握・軽減には利用前訪問での情報収集が重要だとしています。自宅のどの場所でどう過ごし、移動の動線と介助方法はどうか、ベッドの高さや幅、ポータブルトイレの位置など、利用している福祉用具とその使い方を把握する、という視点を挙げています(印字20ページ)。
外出・送迎時には、送迎車両の乗降時の転倒や、送迎直後の玄関先での転倒などが起こりうるとし、細かなマニュアルの作成によるルール化が有効だとしています(印字44ページ)。
- 通所系(当社の整理):送迎の乗降、玄関から車までの移動、入浴、レクリエーションや機能訓練の時の転倒を、演習1の集計の軸に加えます。
- 訪問系(当社の整理):利用者宅の環境は事業所が変えられないことが多いため、気づいた危険をサービス提供責任者やケアマネジャーに伝える流れを確かめます。
- 短期入所(当社の整理):利用前の情報収集で聞くこと(夜間のトイレ、ベッドの高さ、普段の歩き方)を、チェック表にしておきます。
無料の事故防止研修キットとの組み合わせ方
本サイトの「事故防止(安全管理)研修キット」は、事故の類型、ヒヤリハットの活用、事故発生時の対応と報告を扱う読み上げ用レジュメ・確認テスト・実施記録様式・出席簿を、無料で表示・印刷できます(30分)。前半の講義をキットで行い、後半でこの記事の演習1・演習2を行う、という組み合わせ方ができます。
法令や国の資料は改訂されます(本記事は2026年11月時点)。研修の扱いの最終的な確認は指定権者(都道府県・市区町村)に、受診や救急要請、薬などの医療的な判断の基準は配置医師・協力医療機関・主治医・看護職員にご確認ください。介助の手技は、事業所の所定の研修やOJTで身につけてください。本記事は法的助言・医療の助言ではありません。
この記事で確認した一次資料
2026年11月4日に、次の資料の本文を取得し、該当箇所を確かめました。ページ番号は本文の印字ページです。
- 省令(e-Gov法令検索):平成11年厚生省令第39号 第11条第4項・第35条、平成11年厚生省令第40号 第36条、平成30年厚生労働省令第5号 第40条、平成18年厚生労働省令第34号 第155条、平成11年厚生省令第37号 第37条・第104条の3。
- 解釈通知:老企第43号の「事故発生の防止及び発生時の対応(基準省令第三十五条)」の項(厚生労働省 法令等データベースの掲載版)。
- 運営指導:介護保険施設等運営指導マニュアル(令和6年7月改訂)の別添「確認項目及び確認文書」の印字60ページ(介護老人福祉施設)。
- ガイドライン:介護保険最新情報 Vol.1436(令和7年11月7日)で周知された「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」の印字7・8・9・10・15・16・17・18・20・25・28・30・31・32・33・44・47ページ。
- 身体拘束:厚生労働省老健局「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)の印字5・7・21ページ。
- 事故報告:介護保険最新情報 Vol.1332(令和6年11月29日)の通知本文(報告の対象・期限)と別紙の標準様式(発生場所・事故の種別の欄)。
この記事を書いたチームは、note でも介護の仕事で考えたことを書いています。note をフォローする
出典(一次資料)
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)
- 介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成30年厚生労働省令第5号)
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)
- 厚生労働省 法令等データベース「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について」(平成12年3月17日 老企第43号)=「事故発生の防止及び発生時の対応」(基準省令第35条)の本文
- 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」別添 確認項目及び確認文書(令和6年7月改訂・PDF)
- 厚生労働省老健局「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」(令和7年11月/介護保険最新情報 Vol.1436 令和7年11月7日の別添・PDF・2026年11月4日確認)
- 厚生労働省老健局「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月・PDF)
- 介護保険最新情報 Vol.1332「介護保険施設等における事故の報告様式等について(通知)」(老高発1129第1号・老認発1129第1号・老老発1129第1号・令和6年11月29日/別紙 事故報告書の標準様式・PDF・2026年11月4日確認)
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