身体拘束の3要件(切迫性・非代替性・一時性)とは?手続き・記録に書くこと・減算 2026|施設と在宅の違い
更新日:2026-10-26・約10分で読めます
身体拘束は、介護保険のすべてのサービスで原則禁止です。例外は、本人や他の利用者の生命・身体を守るために緊急やむを得ない場合だけで、その判断には切迫性・非代替性・一時性の3つの要件をすべて満たすことを、組織として慎重に確かめる手続きが必要です。拘束した場合は態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由を記録し、2年間保存します。3要件の中身、手続きの4つの流れ、記録に書くこと、施設と在宅で違う義務、減算(施設・居住系10%、短期入所・多機能1%)を、運営基準・解釈通知・国の手引き・Q&Aの原文で整理しました(2026年10月時点)。
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研修キット(レジュメ・確認テスト・記録様式)
まず結論:3つの要件を「すべて」満たし、組織で確かめ、記録する
運営基準(厚生労働省令)は、どのサービスでも、利用者本人または他の利用者等の生命または身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他の行動を制限する行為(身体的拘束等)を行ってはならないとしています。令和6年度の改定で、訪問系・通所系・福祉用具貸与・特定福祉用具販売・居宅介護支援にも、この原則禁止と記録の義務が加わりました。
「緊急やむを得ない場合」に当たるかを判断する基準が3要件です。令和6年度の解釈通知の改正で、切迫性・非代替性・一時性の3つの要件を満たすことを組織等として極めて慎重に確かめ、その具体的な内容を記録しておく必要があると明記されました。
- 3要件:切迫性・非代替性・一時性の3つすべてを満たす必要があります。
- 判断:職員個人ではなく事業所全体で判断し、本人・家族への説明と、当てはまらなくなったときの解除までを手続きとして行います。
- 記録:態様と時間、その際の心身の状況、緊急やむを得ない理由。完結の日から2年間保存します。
- 委員会・指針・研修:施設系・居住系・短期入所系・多機能系の義務です。委員会は3か月に1回以上、研修は定期的に行います。
- 減算:施設系・居住系は10%、短期入所系・多機能系は1%。拘束の有無ではなく、記録や委員会・指針・研修が欠けていると利用者全員が対象です。訪問系・通所系などに減算はありませんが、記録がなければ指導の対象です。
根拠:運営基準の「原則禁止」と「記録」の条文
特養の運営基準(平成11年厚生省令第39号)第11条第4項は「当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない」とし、第5項は、身体的拘束等を行う場合には「その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない」としています。記録は第37条第2項で2年間の保存が義務です。
ほかのサービスも同じ文言の規定を置いています。たとえば老健は第13条、訪問介護は指定居宅サービス等基準の第23条、通所介護は第98条、短期入所生活介護は第128条、グループホームは指定地域密着型サービス基準の第97条、居宅介護支援は指定居宅介護支援等基準の第13条です。
3つの要件の中身:判断の前に確かめること
3要件は平成13年の「身体拘束ゼロへの手引き」で示され、厚生労働省老健局の「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)に引き継がれています。国のQ&A(介護保険最新情報 Vol.1345)と運営指導マニュアルも同じ定義を示しています。
- 切迫性:本人または他の利用者等の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。拘束による悪影響を考えても、なお拘束が必要なほど危険が高いかを、どの情報から分かるのか、医療職などの見解も含めて確かめます。
- 非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代わりの方法がないこと。拘束しないで介護するすべての方法を検討し、ほかに方法がないことを組織で確かめます。手引きは、点滴を抜いてしまう人に点滴が視界に入らないよう位置を工夫する例を挙げています。拘束の方法も、最も制限の少ないものにします。
- 一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的であること。本人の状態に応じて必要な最も短い拘束時間を、何日の何時から何時までと具体的に想定します。
- 手引きは、介護現場で3要件を満たすケースは「極めて少ない」とし、拘束が例外的に許されるのは緊急やむを得ない客観的な状況がある場合で、本人の意思によるものではないとしています。
緊急やむを得ない場合の手続き:4つの流れ
手引きは、3要件を満たす場合でも、次の4つの手続きを慎重に行うよう求めています。
- 1. 関係者全員での検討:判断を職員個人や数名で行わないよう、ルールと手続きを前もって委員会などで決めておき、具体的な事例は関係者が幅広く参加する会議で判断します。
- 2. 3要件に照らした慎重な検討:要件ごとに検討し、代替方法をいくつか試した結果を記録に残します。
- 3. 本人や家族への詳しい説明:拘束の内容・目的・理由・時間帯・期間をできるだけ詳しく説明します。説明する人を前もって決めておき、実際に拘束する時点で必ず個別に説明します。
- 4. 常に再検討し、当てはまらなくなったら直ちに解除:拘束中は本人の様子を定期的に観察し、一時的に外して状態を見るなどして、続ける必要があるかを検討します。
記録に書くこと:省令の項目と、3要件ごとの判断理由
手引きは、記録はアセスメントから始まるとし、次の点を挙げています。また、家族への説明の確認は同意ではなく、家族の同意は拘束を認める根拠にならないとしています。
国のQ&A(Vol.1345 問3)は、短期入所系・多機能系について、3要件すべてを満たすことの記録が確認できなければ減算になると答え、訪問系・通所系などは減算はないものの、記録が確認できなければ指導の対象になるとしています。
- 態様(方法)と時間:開始と終了の日時、1日のうちの時間帯。
- その際の心身の状況:なぜ危険だったのか、観察した事実。
- 緊急やむを得ない理由:3要件のそれぞれをなぜ満たすと判断したか。試した代替方法とその結果。
- 再検討の経過:再検討のたびに書き足し、今後どのようなケアで改善するかを書きます。本人の状態と家族の意見も残します。
- 委員会の議事録(委員会が義務のサービス):開催日時・参加者・議題・議事概要、拘束している人がいればその人数と3要件の確認・判断理由・解除の是非。
身体拘束に当たる行為の例:11項目は「例示」
手引きは、身体拘束を「本人の行動の自由を制限すること」とし、次のような11項目の例を挙げたうえで、これらは例示で、ほかにも当たる行為があることに注意が必要だとしています。
- 車いす・いす・ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
- チューブを抜かないように四肢を縛る、または手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
- Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるいすを使う。
- 介護衣(つなぎ服)を着せる。行動を落ち着かせるために向精神薬を過剰に服用させる。自分の意思で開けられない居室等に隔離する。
施設と在宅で違う義務:委員会・指針・研修が要るサービス
原則禁止と記録はすべてのサービス共通ですが、身体的拘束等の適正化のための措置(委員会・指針・研修)が義務なのは一部のサービスです。短期入所系・多機能系は令和6年度の改定で加わりました。
- 措置が義務:介護保険施設(特養・老健・介護医療院・地域密着型介護老人福祉施設)、居住系(特定施設・地域密着型特定施設・グループホーム)、短期入所系、多機能系(小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護)。
- 委員会:3か月に1回以上開き、結果を従業者に周知します(省令)。テレビ電話装置等で開くことができ、関係の深いほかの会議体と一体的に運営しても差し支えありません(解釈通知)。
- 指針:基本的考え方、委員会などの組織、研修の基本方針、報告の方法、発生時の対応、利用者等による閲覧などを盛り込みます(解釈通知)。
- 研修:省令は「定期的に」としています。確認した介護医療院・短期入所生活介護・小規模多機能型居宅介護などの解釈通知は、「定期的な教育(年2回以上)」と新規採用時に必ず行うことが重要とし、実施内容の記録を求めています。
- 原則禁止と記録だけが義務:訪問系、通所系、福祉用具貸与、特定福祉用具販売、居宅介護支援。
在宅で気をつけること:家族による制限も身体拘束
手引き(令和7年3月)は在宅も対象に加え、家族が行う行動の制限も身体拘束に当たるとしています。在宅で拘束を行わないためのポイントとして、本人・家族とかかわる複数の事業所が日頃から話し合える体制をつくること、専門職ならできる代替方法でも家族にはできない場合があることに留意して家族でもできる方法を提案し、必要に応じてサービスの追加や変更を提案することを挙げています。
減算:施設・居住系は10%、短期入所・多機能は1%
身体拘束廃止未実施減算は、拘束が行われていた場合ではなく、記録を行っていない、委員会を3か月に1回以上開いていない、指針を整備していない、定期的な研修を行っていない事実が生じた場合に、利用者全員について減算するものです。改善計画を出し、3か月後に改善状況を報告し、事実が生じた月の翌月から改善が認められた月まで減算されます(留意事項通知)。
国のQ&A(Vol.1345)は、拘束をしていなくても措置がすべて講じられていなければ減算になる(問1)、運営指導などで見つかった事実が過去のものでもさかのぼらない(問2)と答えています。運営指導マニュアルは、減算期間は最低3か月としています。
- 施設系・居住系:所定単位数の10%。特養・老健は平成30年度の改定で5単位/日から10%/日に引き上げられ、特定施設・グループホームは同じ改定で新設されました。
- グループホーム・特定施設の短期利用など:1%(令和7年4月1日から適用)。
- 短期入所系・多機能系:1%。令和6年度に新設され、1年間の経過措置を経て令和7年4月1日から適用されています。
- 訪問系・通所系・福祉用具・居宅介護支援:減算はありません。
手続きを経ていない拘束は「虐待」に当たるおそれ
手引きは、適正な手続きを経ていない身体的拘束等は原則として高齢者虐待に当たる行為とされ、自治体への相談・通報が必要だとしています。高齢者虐待防止法第21条第1項は、従事者による虐待を受けたと思われる高齢者を見つけた職員に、市町村への通報を義務づけています。運営指導マニュアルは、要件に合わない疑いがあれば直ちに中止するよう指導し、必要に応じて監査に切り替えるとし、職員の不足など施設側の理由は排除されているとしています。
まずやること3つ
- 1. 自事業所の義務を確かめる:委員会・指針・研修が義務のサービスなら、委員会の議事録、指針、今年度の研修記録(新規採用者を含む)がそろっているかを点検します。
- 2. 3要件の記録様式をそろえる:態様・時間・心身の状況に加え、3要件それぞれの判断理由、試した代替方法、本人・家族への説明、再検討と解除の経過を書ける様式にします。
- 3. 研修で3要件と記録の書き方を共有する:このサイトの「身体的拘束等の適正化研修キット」には、そのまま読み上げられるレジュメ、確認テスト10問、実施記録様式、出席簿がそろっています。登録不要・無料で、入力内容はお使いのブラウザの中にだけ保存されます。記事の下の「この記事に関連する無料キット・一覧」から開けます。
この記事で確認した一次資料
本文の条番号・要件・率・Q&Aの問番号は、次の一次資料の原文で2026年10月26日に確認しました(リンクは記事末尾の「出典(一次資料)」)。最終的な適用は指定権者(都道府県・市町村)へご確認ください。
- 各サービスの運営基準(省令)と、令和6年度改正の解釈通知(3要件の確認と記録、委員会・指針・研修)。
- 厚生労働省老健局「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)。
- 令和6年度・平成30年度の介護報酬改定の改定事項、介護報酬の算定構造(令和6年4月)、留意事項通知(老企第40号)の令和6年度改正。
- 介護保険最新情報 Vol.1345(令和7年1月20日)、介護保険施設等運営指導マニュアル(令和6年7月改訂)、高齢者虐待防止法。
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出典(一次資料)
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)
- 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)
- 厚生労働省老健局「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月・PDF)
- 厚生労働省「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について」(老企第43号)令和6年度改正の新旧対照表(別紙14・抄)
- 厚生労働省「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」(老企第25号)令和6年度改正の新旧対照表(別紙10・抄)
- 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)
- 厚生労働省「介護報酬の算定構造」(令和6年4月改定・PDF)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」(PDF)
- 介護保険最新情報 Vol.1345(令和6年度改定 Q&A)
- 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」(令和6年7月改訂)
- 厚生労働省「指定地域密着型サービス及び指定地域密着型介護予防サービスに関する基準について」(老計発第0331004号ほか)令和6年度改正の新旧対照表(別紙11・抄)
- 厚生労働省「介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準について」(老老発0322第1号・平成30年3月22日)
- 厚生労働省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(短期入所サービス及び特定施設入居者生活介護に係る部分)及び指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」(老企第40号)令和6年度改正の新旧対照表(別紙2・抄)
- 厚生労働省「平成30年度介護報酬改定における改定事項について」(PDF)
【免責事項】本キットは研修実施の参考資料です。法令・運営基準・介護報酬の内容は改定されることがあります。実際の運用にあたっての最終確認は、指定権者(都道府県・市区町村等の自治体)へのご確認をおすすめします。本キットの利用により生じた損害について、当社の損害賠償責任は、故意・重過失を除き購入代金の額を上限とします。